母さん……母さん……。


薄れていく意識の中で、
何度も何度も繰り返し叫ぶ声。


声にならない叫び。
閉ざされた暗闇。

何も届かない世界。

寒さに震え、
ずっと母さんを求め続ける。



僕の足の上に何かが倒れているみたいで、
その何かが食い込んで、身動きがとれない。

同じ体勢のまま、感覚がなくなった自分を必死に奮い立たせて
眠ってしまわないように、母さんを求め続けた暗闇。


助けが来るのを待つ時間も、
何度も何度も、揺れる地震。

その度に、今以上に状況が悪化しないように緊張が走る。



嫌だ……助けて……。





グラグラと揺れ続ける感覚に、
慌てて『うわぁ』っと声を発しながら飛び起きる。

飛び起きた僕の目前に広がる世界は、真っ暗な世界。

思わず両手で、自分自身の震えだした体を
キツク抱きしめた。


孤独感が僕を包み込んでいく。


『助けて、助けて……母さん……。
 僕を独りにしないで』



体にギュッと力を入れて、
縮こまらせる僕に、誰かが触れる。

ビクっとなる体に、その手は一瞬離れたけれど
すぐに優しく、支えるように触れ始めた。



「真人……真人……どうしたの?
 真人、大丈夫だよ。

 ボクがわかる?瞳矢だよ……。
 ボクが傍に居るから……」



優しい声が、ゆっくりと浸透して
僕の不安をゆっくりと掻き消してくれる。


ふいにその手が離れて、
部屋の灯りが付けられる。

眩しくなった部屋に安堵感を覚えて、
そのままゆっくりと視線を動かす。


「……瞳矢……」


そこには、僕に笑いかけてくれる
幼い日の親友が確認できた。



「真人、もう大丈夫。
 電気もつけたから暗くないでしょ。

 少しは落ち着いた?
 今、真人が居るのはボクの部屋だよ」


瞳矢が説明してくれるごとに、
少しずつ状況は把握していくものの、
不安感だけが増してしまって、
深呼吸をなんでも繰り返した。


発作の後は、薬に頼りたくなる。


無意識に視線で探すのは、
僕の制服。


だけど今更だけど、制服を着ていたはずの僕は
今、別の服を着ていて、
僕の制服らしきものは何処にも見当たらなかった。


「真人、何か探してるの?」

「制服……。僕の制服何処?」

「制服は濡れちゃってたから、今はクリーニング中。
 今日戻ってくるよ。
 幸い、今日は学校休みだし気にしなくても平気だよ」

「瞳矢ポケットの中の中身知らない?」

「薬が入ってたケースかな?」

「うん……」



頷くと、瞳矢は机の上に置いてあったらしい、
タブレットケースと、ベットボトルに入れて用意されていた
お水をコップに注いで、僕のベッドへと運んでくれた。


瞳矢から受け取ると、いつも飲んでいる薬を
ケースのなかから取り出して水で素早く体内へ流し込む。

空になったコップを僕の手から抜き取って、
入れ違いに体温計を僕の耳に当てる。