一週間の診察の間にわかったことはなんだろうか?
瞳矢が『最後』と言う言葉を何度も口にしながら思いつめてる。

そんな瞳矢を守りながら、
お義母さんや和羽を、現在も単身赴任で海外の現場で働いている
お義父さんのかわりに、大黒柱として務めることが出来るだろうか?




明日、大夢先生のオペを間近で皆から勉強することが決まっている。

予習をして、明日に備えて休息しないといけないのに
頭の中になかなか入ってこない内容。

こんなにも手につかなくなるのは初めてで。


書斎デスク。


遺影もかねて飾っている両親の写真を
チラリみやる。



『父さん、……母さん……。

 僕に何が出来る……。
 大切な弟たちの為に……』



ふと自問自答を遮らすように、
室内に携帯のバイブ音が響く。



「はいっ。西宮寺」

「冬生。
 今、少しいいか?」



電話の相手は指導医の大夢さん。
そして後ろからは聞き慣れない声が聞こえる。


「時間は大丈夫です。まだ起きてましたから」

「今、お前の弟の件が気になって天李のところに顔を出してきた。
 
 まだ病名の特定にまでは至ってないが、
筋肉と言うよりは神経が原因だろう。

 ニューロン障害の疑いも出てきてるな」


……ニューロン障害……。



「大夢さん……。
 天李さんはALSを疑っていると言うことですか?」

「まだ疑いだがな」

「ですが弟は成人していません。
 ALSは40歳以上の発症率が多いはずですが」

「だが……まれに……未成年から20代の
 発症例も報告されている」 
 

……そんな……。


「冬生、弟の方は天李に任せておけ。

 また進展があったら連絡する。
 とりあえず今日はもう休めよ。

 いいなっ。

 明日、目の下に……クマ作って来てみろ覚えてろよ。

 明日のオペにお前は集中しろ。

 俺が……教えてやるんだ。
 俺が神前に1日も早く戻れるようにとっとと鍛えて
 仕込んでやるよ」



大夢さんの電話は用件だけ伝え終わると一方的にきられる。



……ALS……。



ニューロン障害の疑いと聞いて、
真っ先に僕の脳裏に思いついた病名。




……まさか……。


瞳矢が本当にALSなら、
和羽たちに僕はどう告げればいい?


お義父さんやお義母さん。


それに……今もコンクールの事で
指先の痺れと向き合いながら必死に、
今を生きようとしている瞳矢に……どうやって向き合えばいい?




僕の心に闇はゆっくりと舞い降りてくる。
どうかこの時間がすぐに晴れ間を覗かせますように。