デスクの引き出しの中に今も納まっている
一枚の古びた封筒。


そのなかに、ボクの宝物が詰まってる。

引き出しのなかからそっと取り出して、
ボクは幼い頃の思い出を抱く。


『瞳矢、ぜったい忘れないよ。
 僕と瞳矢はずっと友達だから』



すでに色褪せてしまった
セピア色の便箋に書かれた、
真人の力強い文字。




引越しの朝、
真人がボクに届けてくれた一枚の手紙。



……真人……
僕が真人に出来ることはないのかな?


ずっと独りで全てを抱え込むなんてしんどいよ。

真人はずっとボクを助けてくれたんだから、
今度はボクに甘えてくれていいんだよ。





「瞳矢、入るよ」


ノック音の直後、
扉が開いて兄さんが顔を見せる。

「……兄さん……高雅先生は?」

「今病院まで送ってきたよ。
 真人君の様子はどう?」

「今は大分、落ち着いてるよ。
 
 時折、苦しそうに顔を歪ませるけど……眠ってる」


義兄さんはベッドサイドに近づいて、
真人の様子を診ると、点滴パックの液体が空になったのを確認して
高雅先生が処置していった点滴の針をゆっくりとはずした。

「そうだね。

 このまま朝には熱がもう少しさがってくれれば
 安心だね」

「……うん……」

「瞳矢、神前医大の天李(てんり)先生から連絡貰ったよ。
 今日は一緒に病院にいけなくてごめんね」

「ううん、義兄さんも仕事なんだから仕方ないよ。
なんかまた検査に行かないといけないみたいなんだ」



ここ数日の検査でただ一つわかっていることは、
ボクの筋肉が衰え始めていると言うこと。

筋肉が衰える病気のいくつかをボクはテレビで見て知ってる。


だから……多分、
ボクもそうなってしまうのかも知れない。


そんな恐怖がボクに押し寄せる。
まだ決まったわけじゃない。


告知されたわけじゃない。


だけどボクの指が日に日に動かなくなっている現実が、
マイナス思考へと発展させていく。



「瞳矢、大丈夫。
 僕がついてるから心配しなくていい」


義兄さんがボクの不安を感じ取ったのか、
そう言って抱きしめてくれる。

優しい声に誘われるように、
ボクの瞳から伝い落ちる涙。