母さんの車が自宅駐車場へと到着すると、
すぐに真人を後部座席から、
負ぶってボクのベッドへと運び込んだ。
 



「あらっ、瞳矢お客さん?」



顔を出したのは、和羽姉ちゃん。



「姉ちゃん、真人だよ。
 熱が高くて」

「わかった。
 とりあえず濡れてるままだと悪化しちゃうわ。
 バスタオルと、氷嚢持ってくるわ」


慌ただしく階段を駆け下りていく音が遠ざかる。

入れ替わりに、
母さんが着替えらしきパジャマを手に戻ってきた。


「着れるかしらね。

 真人君、瞳矢より少し大きいから
 冬生くん用に購入してたものだけど」

「大丈夫だと思うよ。
 真人の制服とサイズが一緒みたいだから」


そのまま真人の着替えを手伝って、
母さんは制服をクリーニングに預けに出掛けて行った。


「瞳矢、アナタも濡れてるじゃない。
 風邪ひいたら困るでしょ。

 お風呂スイッチ入れてきたから、あったまってきなさい」

「うん。
 義兄さんから連絡があったらお願い。
 真人のこと頼んでるから」

「わかったわ。
 冬に頼んでるなら、大丈夫ね」



そう言うと、真人のことを姉ちゃんに任せて
ボクは浴室へと向かった。


体をあたためて、髪を乾かして出て来た頃には、
すでに義兄さんは、もう一人の指導医の先生らしき人と一緒に
ボクの部屋に顔を出していた。



「ほらよっ。
 ったく、しゃねぇーな。この坊主も。
 けど帰りたくない事情はありそうだな」

「みたいですね」



義兄さんとその人は、意味深な言葉を紡ぐ。



「恭也小父さんに話しに行ってきます」


深刻な顔をして、
今にも飛び出していきそうな義兄さんを
その先生は、腕を掴んで阻止すると言葉を続ける。


「冬生、今はまだ早い。
 そうと決まったわけじゃないだろう。

 お前にとっても弟なんだろ。
 コイツは。

 だったら、しっかりと家庭教師をしながら気にかけてやれ。
 坊主の身に何かがあったら、俺がフォローしてやるよ。

 てめぇが、一人前になって俺に楽させてくれるまではな」


そう言うと、その人は今度はボクの方に近づいてくる。



「天李とはどうだ?
 信頼関係きずけそうか?

 俺はコイツの指導医の高雅大夢【こうがひろむ】だ。
 じゃあな。

 学校での坊主のことは、お前に任せたぞ」


そんな言葉を残しながら、高雅先生は階下へと降りていく。
慌てて後を追いかける義兄さん。



高雅先生によって診察されて、点滴されている真人は
今もまだ苦しそうで、魘され続けている。





苦しみを閉じ込めないで。
僕はずっと君の傍に居るよ。





真人が眠り続けるベッドの傍らで、
僕は静かに十字架をきる。





……真人……長い時間、
雨の中を歩いてたんだね。

何が真人をそうさせるの?

ごめんね。
気がついてあげられなくて。


入学式のあの時から、
真人の様子がおかしいのは薄々感じてた。



思えばあの日の行動は、
ボクが知る真人の行動じゃなかったから。


なのにボクは、
自分だけが酷く傷ついた気になってた。