「真人君っ!!」


慌てて車から降りて来た長身の男性。
僕は慌てて立ち上がって、その場から立ち去った。


雨が僕の体を確実に冷やしていく。
僕の心を閉ざさせていく。


心の中はずっと叫びたい衝動で
いっぱいだった。


張り裂けそうなほど限界だった。
臨界点の突破も間近。


だけど僕には、それを口にする権利はない。

僕は必要のない人間だから。


土砂降りの雨の中、僕は傘をさすことなく
街中をふらふらと彷徨っていた。


行宛なんかない。


ただ求めるのは僕の終曲点。
この苦しみから解き放たれる終曲の瞬間。


「真人!!」


聞き覚えのある声が聞こえたと同時に、
ふと誰かに体を揺すられた。

僕が俯いたまま顔をあげたとき、
傘もささずに車から出てきた瞳矢の姿が視界に入る。


「……瞳矢……」

「真人、こんなところで何してるの?
 風邪ひいちゃうよ。
 早く車に乗って。
 家までママに送って貰うから」


僕の腕を掴み取ると、
瞳矢は傍らに停車している車に連れ込んだ。



「……瞳矢……。

 僕、家には帰れないよ」


上から下まで僕の肌にべったりと
はりついている制服。


ずぶ濡れの髪の毛から雫が、
止まる事をしらぬままに落ちてシートに染みを広げていく。


「そうだね。

 真人の家にすぐには帰せないね」

「…………」

「瞳矢、ママの鞄の中にタオルが入ってるから
 早く真人君の髪の毛拭いてあげなさい。

 ほらっ、真人君もちゃんと自分でやるのよ。

 本当にこんな雨の中で
 傘も持たずに歩いているなんて……」
「そうだ。
 真人、車の中だけど……
 僕、今日着替えが鞄に入ってるんだ」

「…………」


僕の体をタオルが包み込む感覚を
遠くで感じる。



「真人?どうしたの?真人?」




瞳矢の優しさが僕の魂をゆっくりと包み込んでいく。
僕は今、独りじゃない。


そう思える温盛を抱きながら、
僕はゆっくりと意識を遠のかせていった。



僕はまだ独りじゃない。