それにどうしてわかってくれないの?


僕はこれ以上、関わりたくないんだ。
勝矢兄さんと継母に。


だからあの人たちを刺激するようなことは、
一切してほしくないのに。


貴方が僕にそれをする度、
僕の居場所がなくなっていくんだ。



「家の方はどうだ?

 昭乃と勝矢と上手くやっているようだな。
 昭乃からからそう聞いている。

 最初は心配していたが今は私も安心していられる」

「……はい……」


……もう、いい……。
貴方は何も気がついてくれない。



「私はこの後、院内をまわって何事もなければ帰宅する。
 先に帰って勉強しておきなさい。
 明日から、真人に家庭教師を頼んでおいた。

 西宮寺冬生と言って、この病院を真人と一緒に守ってもらう戦力の一人だ。

 真人も昔あったことあるぞ。勇生【ゆうき】先生の子供。冬生お兄ちゃんわかるか?
 昔、沢山遊んでもらったんだぞ。

 その冬生も四月から研修医として働いている。
 将来的には院長となった真人の補佐を彼に任せたいと考えている。

 それを理解した上で、彼に勉強を見て貰いなさい」

「……はい……」

「ではこの処方箋を持って薬局に行きなさい」



一度も視線を合わすことなく終了していく
診察と言う名の無駄な時間。


僕は処方箋を受け取って一礼すると、
院長室を退室する。



あの人の言葉は僕に何も届かない。



全てを強引に独断で押し進めるやり方も
気に入らない。



あの人は何もわかってない。
わかってないんだ。



薬剤部に立ち寄って新しい薬を受け取ると
僕は病院を飛び出す。



診察の後、
僕はいつも無性に死にたくなる。



こんな感情も
多分あの人にはわからない。




あの人には届かない。




クラクションの音と共に、
急ブレーキを踏む音が周囲に響き渡る。



その音が僕を現実へと引き戻した。



僕は土砂降りの雨の中、
車の前で座り込んでしまった。