何時から僕はあんなに
誤魔化すのが上手くなったんだろう。


幼馴染に再会することは出来た。


再会できたのは嬉しい。

それは確かなんだけど、
あの頃の時間は取り戻せていない。


入学式の日、
僕は瞳矢の前から逃げ出した。


あの日以来、
瞳矢は学校を欠席している。


今の僕と瞳矢には
大きな溝が邪魔をしている気がする。



だけど……今の僕は本当の自分のことを
誰にも話せないでいた。



生活が充実しているのだと思わせるように、
僕は幸せなんだと、自分に暗示をかけるように
一番楽しかったことだけを求めるように、
探して強調して言葉を選ぶ今の僕。



何時から僕はこんなふうに
会話をするようになったんだろう。


この病院に通院をするようになって、
顔馴染みになったスタッフに会釈をしながら
僕は院長室を尋ねる。



院長室のソファーに座って呆然と時間を過ごしていると、
扉が開いて、あの人がゆっくりと入ってくる。



瞬間、体に力が入る。



「真人、遅くなった。
 後少しで終わる。
 暫くソファーに座っていなさい」



白衣をハンガーにかけると、
あの人はデスクに設置されたパソコンを触る。


あの人が僕を呼ぶ呼び方が、
あの日から変わった。


思い出の中のあの人が、
僕の名前をパパとして、真人と呼んだのは
退院したその日、一緒に向かった動物園と遊園地の時間。


だけど今、あの人はあの遊園地の時の様に、真人と呼ぶ。

あの頃、嬉しかったドキドキは
今は不快感以外のなにものでもない。


母が名付けてくれた大切な名前。
僕にとって生まれて初めてくれたプレゼント。


その宝物を踏みにじられるみたいで、
あの人に呼ばれる度に、チクリと胸が痛む。


今、僕の前にいる人が
僕が尊敬する大好きな人だった時間はもう終わったんだ。


それを強く思い知らされる時間。


此処に来なければ、
それをずっと知らずに、澄んだかも知れないのに。


今もあの人が、僕の命の恩人であることには違いないけど、
それでも今の僕があの人に向けられるのは憎悪のみ。


心臓外科と精神科の権威なんて騒がれて、
全国から紹介状を携えて来院する患者さんが
いるくらい優秀な人……それが世の中が知るあの人の姿。



だからこそ、幼い日の僕は助けられた。



僕にとってもそうだったのに運命は残酷だ。