「真人君はなんじゃったかな。

 どっかのお偉い病院の先生が、
 向こうに連れて行ってしもうたな」


そう言うと、乾さんはまた散歩の続きをしていたのか
その場所から離れていった。


次に向かうのは、伯母さんが眠るお墓。


同じように住所を手掛かりに、
墓地まで辿り着くと、此処に来るまでに花屋で購入した
花をお墓の前で献花して、静かに手を合わせた。





おばさん、こんにちは。

今も俺、ピアノ続けられていますよ。
昔、伯母さんにピアノの楽しさを教えて貰って良かった。

母さんの練習だけじゃ、
基礎ばかりで何の楽しみも得られなかった。

震災の件、ずっと気にかけてました。
母さんもまだ来られていないけど、ワールドリサイタルが終わったら
飛んでくると思うから。

もう少し待っててください。


お墓の写真だけ取らせてください。

母にメールしておきます






お墓の前に座って、そんな会話をすると
携帯を取り出して、カシャリとお墓の風景を母の携帯にメールした。


そのまま駅へと戻って、新幹線で移動していると
一通のメールが着信を告げる。

マナーモードにしたまま、そのメールを開くと
送信相手は、母だった。







咲夜、姉さんの墓参り行ってくれたのね。
写真有難う。

私もこの仕事が終わったら行くわ。
後、咲夜のことだから真人も探しに行くんでしょ。

真人は今、本当のお父さんと一緒に暮らしてるの。
お母さんが離れてる間に、ロンドンの自宅に、真人を引き取っている
彼の本当の父親から、エアメールが届いてたわ。

私のもとに届くまでに時間がかかってしまったけど、
真人のことは心配しなくていい。

姉さんのことをずっと見守って愛し続けた恭也君だから
ちゃんと任せられるわ。


紫音さんの仕事が終わったらちゃんと帰ってくるのよ。

後、一目会いたいと思うから
真人の居場所、連絡しておくわ。



多久馬総合病院  

この病院の院長をしてるのが恭也君。
真人が小さい時、心臓を手術したのは話したでしょ。
その執刀医も彼なのよ。





その後、メールには住所が書き記されていた。






伊集院さんの滞在先である、娘の穂乃香の家を訪ねると
穂乃香は懐かしそうに俺を迎え入れてくれた。


「いらっしゃい。咲夜君。
 パパ、奥の防音室で演奏してるよ」

「有難う。
 奥はいらせてもらうね」


そのままノックして、防音室のドアを開けると
伊集院先生は、ラフマニノフを弾きつづけていた。


圧巻の演奏に暫し、耳を傾けた後
演奏が終わったタイミングでお辞儀をする。