「あぁ。
 私は……パス。

 なんか……右と左の回路が思うように繋がらなくて混線した感じ。

 あっと言う間に瞳矢たちに追い越されて、
 やる気なくしてやめちゃった。

 だから聞かせてなんて、絶対言わないでよ」



慌てて僕の想像を全否定するように、
言葉をまくし立てる。



「……残念……」



和羽が苦戦しながらピアノを弾いている姿を
脳内で想像しつつ、僕はクスリと微笑む。




「帰り道。

 瞳矢と車の中で会話した時、
 真人君が僕の知ってる、真人君だって確信したよ」


その真人君が瞳矢の親友だと知った今日。





興味の対象は益々広がった。





「そっかー。

 冬生、ずっと多久馬先生とことかかわってきてたんだったら、
 そういうこともあるのかも知れないね。

なんか……世間って、狭いね……」



和羽は百面相を繰り広げながら
にっこりとほほ笑んだ。




「和羽……院長に頼まれたから暫く、
 真人君の家庭教師することになりそうだよ」

「そう。

 なら……真人君のことお願いね。

 入学式で……再会したって聞いて
 『我が家で暮らせたらいいのにね』
 なんて話してたのよ。

 知らない家よりは知ってる家族の方が
 落ち着かない?って。

 だけど……多久馬院長が保護者になったなら
 その方が……真人君は幸せなのかもしれないよね」




……幸せ……。




その言葉が僕は不安に変わっていく。








あそこには、
あの二人がいる。






そして恭也小父さんは、
その闇に巣食う存在に気が付いていない。





「後……瞳矢から
 少し気になること聞いた。

 ピアノ弾く時に
 時折……力が入らなくなるみたい。
 
 僕は……専門外だから……
 少し調べてみるよ。

 その後……コンクール前に病院に行くことに
 なるかも知れないから詳しいことがわかったら連絡するよ」




会話を遮るように一本の電話が鳴る。





僕はポケットに手を入れて
携帯電話を握りしめる。