― 数日後 ―


H市から帰った僕は、
暫くの間、父の病院で精密検査の為入院を余儀なくされた。

僕が薬を大量に飲んでしまった行為は、
肝機能を著しく悪化させるらしく、その為の検査入院だった。


そして退院した僕は、
冬お兄ちゃんや、瞳矢の待つ檜野家へとお邪魔した。


決して、咲夜と一緒に生活したくなかったわけじゃないけど
ただ今は、瞳矢と一緒に過ごしたいって思ったから。



「瞳矢、時間だよ」

「うん。後もう少し」


僕は瞳矢の部屋へとノックをして入室する。


「ほらっ。此処をこうして……」


筋力が低下した伸びなくなった指で
必死に制服を着用している瞳矢。


その瞳矢の心を傷つけないように、
少し手を貸す。

瞳矢が制服を着やすいように。


「有難う」

「さ、行こう。
 冬兄さんが玄関で待ってるよ」

「うん」



僕は瞳矢の荷物を抱えて、
瞳矢の様子を見ながら先に階段をおりる。




瞳矢と共に、冬兄さんの車に乗り込むと
車はゆっくりと動き出す。


後部座席に体を預けながら、
僕は退院の日、檜野家にお邪魔する前にした
お父さんとの会話を思い出した。


『真人。

 真人が瞳矢君と一緒に生活したいと思ったなら、
 私は反対しないよ。

 ただ何時でも帰ってきたくなったら、帰ってきなさい。
 私も真人を尋ねていく。

 瞳矢君はALS。
 筋肉の低下をもたらす病気だ。

 これから病状が進行していく。
 詳しい病状の資料は持ってきた。

 現在の医学ではどうしようもない。
 だが真人なら癒すことができるかも知れない。

 病気を治すのではなく、瞳矢君の心を癒すことができる。

 だから力になってあげなさい。
 傍に居てあげなさい』


僕が瞳矢に何をしてあげられるかわからない。
これからどうしていけばいいのかもわからない。

確実に「死」を意識しながら、
ゆっくりと残りの時間を過ごしていく瞳矢。


指が動かなくなり、足が動かなくなり
最後には立つことも出来なくなる。

そして自発呼吸すら奪われて、
ブラックアウトしてしまう病気。

生きているのに全ての感覚から遮断される日。


そんな未来を決められた瞳矢に
僕ができること。


それも今はわからない。
だけど……今は一緒にいたい。