今度こそ中断仕掛けた話をきっちり告げないとな。


そう思って深呼吸をした直後、
再び、病室の扉が開いた。



姿を見せたのは、女の人と似たような年の男の子。

「昭乃、勝矢」

恭也さんが名を紡ぐ。


「院長夫人、勝矢君」


冬生さんが紡いだってことは、
この二人が多久馬の家の者。



この場ではっきり言わないと。

今度こそ決意を固めて、
『多久馬家に真人は任せられない』と言いかけた頃、
母さんによって、病室の外に連れられた。



「咲夜、紫音先生がホテルを取ってくださってるから
 今日はホテルに参りましょう。

 あの場に私たちが居ても、出来ることはないわ」


そのまま病院を後にしてチェックインを済ませると、
もやもやとしたまま、一夜を過ごした。



翌朝、紫音先生は用事を済ませて帰るからと
ホテルで別れ、俺と母さんは真人の居る病院へと足を向けた。


病室の前には、昨日見せていた顔ぶれが
真人を心配して集まっているものの、真人はまだ眠ったままみたいだった。


病室の外にいる人たち会釈だけ済ませると、
病室の中へと入る。


俺たちが入った時、冬生と言う人が真人を檜野家で一緒に住まわせたいと
恭也さんに進言しているところだった。


その言葉の後に、昨日言えなかった言葉を俺も続ける。



「神前悧羅に編入が決まりました。

 卒業までは日本で生活するので、真人が望めば
 俺は真人と一緒に生活したい。

 俺と真人は従兄弟同士です」



突然の俺の言葉に、冬生さんも、恭也さんも驚いたような表情を見せる。


「俺は今も一緒に住みたいと思ってます。
 だけど、紫音先生に言われたんです。

 それを選択して選ぶのは真人自身だって。

 だから真人が、他の未来を選択したなら俺はそれに従います」



そう……真人が自分の意思で、
自分の未来を見定めたなら、俺はそれを邪魔することなんて出来ない。



「有難う。
 真人は本当に幸せ者だな。
 
 瞳矢君といい、咲夜君といい、直澄君だったかな。
 真人を思って、気遣ってくれる存在がこんなにも沢山いる。

 目が覚めたら、私は真人の望むようにさせてやりたいと思う。
 そのどれもを選ばなかったとしても、多久馬の家には入れずに
 真人の羽を伸ばせる部屋を作ろうと思ってる。

 咲夜君、君の拳にはいろいろと考えさせられたよ」



そう言った恭也さんは、ゆっくりと一言一言話し続けて
再び、真人の方へと視線を戻した。




真人、何時まで眠ってんだよ。



早く起きろよる
皆、待ってんだろ。


未来は動き始めるんだ。
真人が望む世界へと。