四月。

僕は、二月に行われた国家試験を経て研修医として、
亡き父の友人であり、後見人として僕を支え続けてくれた
恭也小父さんが病院長を務める、多久馬総合病院へと就職した。

新春を迎えて受験勉強に必死になっていた最中、
一月に大きな地震が起きた。

その地震の情報と共に、
病院を飛び出していった恭也小父さんは
一人の男の子を連れて帰宅し、
その少年は恭也小父さんの子供として戸籍に刻まれた。


男の子の名前は、真人【なおと】。
僕が高校生の時に当時手術の為に入院に来ていた彼と、
何度か遊んだことがあった。

っと言うよりも亡くなった父さんや母さんに言われて
夏休みの間、病室での遊び相手になってた。


そして、彼の母親である
神楽小母さんとも、両親は面識があって
僕の中では近い位置にいた弟みたいな少年。



その子がすでに中学三年生になっているのは知りつつも、
辛い目にあって、
この街に引っ越してくるようになるとは思いもしなかった。


彼のことが気になりながらも、受験勉強のラストスパートと言うこともあって
真人君のもとを訪ねることが出来ないまま、季節は流れて四月となった。




『冬生、お前には期待している。
 冬生は私の親友の大切な忘れ形見。
 冬生には、この病院を任せられる器になってほしい。
 私は、そう願っている。
 
 真人が今日から高校生になった。

 真人はな。
 小さい時……私に言ったんだよ。

 僕も大きくなったら先生みたいなお医者様になるって。
 
 私にな……。

 だからこそ……私は冬生と真人に、
 この病院を守ってほしいと思うんだ。

 研修医として大変な時期ではあるが
 真人の家庭教師をしてやってくれないか。

 指導医の大夢(ひろむ)には私が言っておく。

 無論、冬生の研修医としての時間もしっかりと勉強してもらうぞ』





研修日、初日の帰宅前。
院長室に呼び出された僕は院長とこんなやりとりをした。




僕の両親は多久馬院長と同じ、
この病院の共同経営者だった。



スポンサーは……
現、多久馬院長夫人の実家。



幼い時から病院内を慌ただしく走り回る
両親の背中を見ながら育った。



それでも父や母を嫌いになることはなかった。



学校に通い、長い間寮生活を続けた。

この街に帰って来て暮らすようになったのは、
大学生活を始めるようになって、母校である神前悧羅学院昂燿校を離れたから。


仕事に明け暮れた両親だったけど僕にとっては誇りで、
そんな両親の背中を追いかけて医学部受験に向かって
必死に勉強している矢先両親は……、
交通事故であっけなく天国のドアを叩いた。


両親と出かけた最初で最後の旅行だった。



その後、僕は恭也小父さんに後見人となって貰って
今に至る。




……院長には……恩がある……。





だけどそれと当時に、気になるのは
恭也小父さんの家族。

多久馬家の家庭環境。


多久馬家に少し身を寄せた僕だからこそ、
理解できる……多久馬家の歪に、
彼が巻き込まれなければいいと願わずにはいられない。