通された個室で、食事をしながら会話をしたのは
守秘義務があるので詳しい内容は話すことは出来ないけれど、
目の前にいる『西園寺天李』と言う人が、瞳矢の主治医だと言うこと。



そして一般的に、ALSと言う病気がどういう進行を遂げていくのかを
私にもわかりやすく教えてくれた。





「穂乃香さんも、辛くなったら何時でも気分転換にいらっしゃい」



そう言って、裕さんと呼ばれていたその人は
名刺を私に握らせる。



食事会の後、綾音の小父様に送られて
自宅へと戻ると、パパから着信が携帯に入った。



「もしもし、パパ」

「今、駅についたよ。
 後、10分ほどで帰宅する」

「うん。
 私も今、綾音の小父様に送って貰ったの。

 食事に連れて行っていただいて、瞳矢の主治医の先生たちにも会ったよ」

「そうかい。
 パパが離れていて、やりたいことを出来なさそうだったから紫に頼んだんだよ」



そんな会話をしている間に、すぐに自宅のチャイムが鳴らされて、
扉を開けるとパパが姿を見せる。



電話を素早く切って、パパに抱きつくと
パパも優しく私を抱きしめてくれた。





暫くパパの温もりに浸った後、
私は気になっていることを問いかける。



「あの子は?
 咲夜の従兄弟で、瞳矢のお友達の……」

「真人君だね。
 彼のお母さんが眠ってるお墓の前で倒れているところを発見したよ。
 今は病院に入院している」

「入院?」

「そうだね。

 彼には悲しいことが沢山あったみたいだね。
 だけど、それもこれからの未来が、支えてくれるだろう。

 彼はどれだけ皆に愛されていたかを知ることが出来たはずだからね」


「咲夜は?」

「咲夜も冴香さんもまだ向こうにいるよ。
 
 だけど私には、気になることがあったからね。
 穂乃香の心は大丈夫かな?」


そう言ってパパはまた私を気遣ってくれる。




一番支えて欲しいと思うその時に、
必ず手を差し伸べて、胸をかしてくれる存在。


そんなパパに縋るように、
思いきり泣きつづけた。



そんな私の背中を優しく摩りながら、
落ち着かせると、パパは次の言葉を告げる。



「瞳矢君と、これから穂乃香はどうしたいだい?」




私は瞳矢の傍に居たい。





そう思う気持ちは、病名を知った後でも決して
変わることはない。




「瞳矢の傍に居たいよ……」




よわうやく吐き出すことが出来た想い。






「穂乃香の選んだ未来は険しいけれど、
 それでも瞳矢君の傍を選ぶと言うなら、パパは反対しないよ。

 悔いのないようにしなさい。
 パパはいつも、穂乃香の味方だからね」




そう言って笑ってくれたパパは、
優しいけれど、言葉で背中を押して勇気を運んでくれるようで
凄く心地よかった。



瞳矢の為に出来ること。