コンクール地区大会本選が終わって、
その余韻に浸る間もなく、慌ただしくなる私の周囲。


私の中の不安。


ALSと言う病名だと告げられた瞳矢。


最初は何それ?


そんな感じだけだった病名も、
一人自宅に帰って、
PCを叩けばどんな情報だって検索出来てしまう。


ALSを患っている人や、その家族が書いているBLOGを読みながら
不安でいっぱいになる。



その足で、パパの書斎に入って沢山本棚に片付けられている医学書の中から、
気になるキーワードをもとに適当に分厚い本を引っ張り出して読んでみる。




何かやっていないと、不安で押しつぶされそうで怖かった。



眠れないまま朝を迎えた私は、
携帯を見つけながら、今も連絡が入っていないことに肩を落とす。






何だか……私だけが、
逸れ【はぐれ】ものみたいじゃない。







一人呟いて、パパの書斎のソファーから立ち上がると
自分の部屋へと向かって制服に袖を通す。




昨日はコンクールために部活を休ませて貰ったけど、
今日は休むわけにはいかない。



寝不足に怠い体を隠しながら、学校まで辿りつくと、ユニフォームに袖を通して
練習試合を重ねていくものの、集中できていない私はミスが目立っていた。、




ミスをしながらも、何とか一日の部活を終えて
そのまま、また携帯電話を見つめる。



液晶画面に呼び出す、瞳矢の電話番号。 


発信ボタンを押したいと思いながら、押すことが出来ずに
表示を解除すると、次は咲夜の電話番号、パパの電話番号を順番に表示させる。



だけど……何処にも発信できなかった。




迎えの車に乗り込んで、自宅へと辿り着くと
心配してくれた、パパの友達が玄関の前で待っていてくれた。





「穂乃香ちゃん。
 お帰りなさい」


そう言って私に声をかけてくれたのは、綾音【あやね】の紫【ゆかり】小父様。
そしてその隣に乗っているのが、紫小父様の奥様で、デザイナーの姫龍【きりゅう】さま。



「ごきげんよう。
 パパは、今出掛けていて」

「知っているよ。
紫音はH市に行ってるみたいだね。

 私の情報網は、今も健在なんだよ」



そう言ってクスリと笑った綾音の小父様は、
車の中へと私を招き入れた。




途中の『Kiryu』と看板が出されたお店で、
洋服を着替えると、私はそのままレストランへと連れて行かれた。



出向いたレストランには、先客が三名居て
それぞれが小父さんの姿を見ると、胸の前に手をあててスーっと膝をつく。


まるで映画のワンシーンのしような情景に
息を飲まれてしまう私が存在する。




「裕、天李、大夢。
 呼び出してすいません」


小父さまが告げると、
立ち上がった三人はただ黙ってお辞儀をした。



「こちらは、伊集院穂乃香さん。
 紫音のお嬢さんですよ」

っと突然紹介されて、私は慌てて『ごきげんよう』っと挨拶をした。