H市。

真人と神楽姉ちゃんの大切な故郷は、
一月の震災の凄まじさを物語。


倒壊した家屋。

危険と書かれたテープが至る所に貼られて囲われ、
ブルーシートが目立つ。


あの日からもうすぐ四ヶ月。



まだまだ復旧と言う言葉には程遠い市街地。




そんな街の中をタクシーは駆け抜ける。


前方を走るタクシーが停車すると、
ボクたちを乗せたタクシーもゆっくりと停まった。



タクシーを降りて、恭也小父さんの方へと向かう。





「冬生、この辺りが真人と神楽が住んでいた家があった場所だ。

 私は向こう側を探す。
 冬生は、瞳矢くんと逆側を探して貰えないか?」




恭也小父さんの言葉に頷くと、
僕は、義弟と飛鳥君と一緒に左側を探し始める。


僕たちが動き始めても、
瞳矢だけはその場所から一向に動こうとはしない。


ただ黙って何処かを見つめているみたいだった。



慌てて瞳矢の視線の方向を見つめる。


半倒壊した建物。



「瞳矢?」


瞳矢の名を呼んで、
その深刻そうに思いつめた時間を遮る。


「瞳矢、どうしたんだよ」


飛鳥君もまた、歩き始めた道を戻ってきて瞳矢を気遣う。

瞳矢はその後も暫く沈黙した後、
ゆっくりと言葉を発した。


「あの家、この街にいた時にボクが住んでた場所なんだ。
 あの更地になってるところは、真人の家があった」

「それだったら、お前……アイツとめちゃくちゃ近いじゃん」

「近いよ。
 ボクと真人は、幼馴染だけど……感覚的には兄弟だったから。
 真人の小母さんのピアノでボクは、ピアノの楽しさを知った。

 真人のお母さんはボクにとっても先生だから。

 でもその先生も……あの震災で、あの場所で亡くなっちゃった。
 
 そんなこと考えてたら、悲しくなっちゃって動けなかった。

 真人……もしこの景色見てたら、どんなふうに思っただろ。
 それを考えるだけで苦しくなるんだ」


瞳矢と浩樹の会話を聞きながら、
この場所が、和羽にとっても大切な場所なのだと心の中に刻み込む。

ここには、僕の知らない大切な時間が刻み込まれていたんだ。

そう思うと、不思議と僕自身の心も痛かった。
生まれて初めてきた場所だと言うのに。


「瞳矢、瞳矢も悲しかったね。
 僕も……今、いろんなことを考えてた。

 だからこそ……、神楽姉ちゃんがずっと守り続けたかった真人を
 僕たちが守らないとね。

 今日、恭也小父さんに話そうと思うんだ。
 真人が見つかったら。

 瞳矢の病気のことも含めて、真人と一緒に暮らしたいって。

 ちゃんと……真人のことも考えて、話し合うから。
 その為にも、今は真人を探そう」


話題を変えるように、自分を奮い立出せると
その後も周辺を探し歩く。


それでも真人が見つかることなくて僕たちはタクシーを停車させた、
更地となった真人の家の前まで戻った。



次に恭也小父さんに誘導されて向かったのは、
丘の上にある霊園。



タクシーを降りると、
海の香りが風に乗って運ばれてくる。