この国では母国語で普通に話せる人間も、ちょっかいをかける奴をそれとなく追い払ってくれるような親切なクラスメイトもあまり期待できない。きっと誰から見ても自分は友達やクラスメイトではなく、観察対象だからだ。そして恐らく、これから向かう新しいクラスの生徒たちは、イタリア人の転入生がどんな見た目、性格か、各々好き勝手に妄想しているだろう。一番ありそうなのは、女子に優しい陽気なラテン男だ。だがレオンは陽気でもなければイタリア人では珍しい色白金髪で見た目もどちらかと言えば細くか弱そうである。勝手に期待されて勝手にがっかりされるのを彼は予想した。

そうこう考えているとついに、担任教師は自分を校舎の中に招き入れ、新しい教室の前に連れて来てしまった。この恰幅のある中年男性教師はイタリア語は話せないが、下手くそな英語で
「緊張せずに簡単な自己紹介だけよろしくな」
と言ってきた。もちろんどんな自己紹介をするか考えはまとまっていない。しかし教室のドアは彼を待たずに開いてしまった。