レオンは父親がずっといなかった事も影響してか元々大人しく引っ込みがちな性格だったが、母の再婚はそれに拍車をかけた。学校にはただ行って、授業を受けて、帰るだけ。他人とは最低限にしか接触せず、友達と放課後遊んだりする事も全くなかった。そうして余った時間はほとんど勉強とアルバイトに費やした。

学校では無表情で机に座る「だけの」彼を不気味に思う者やからかう者もいたが、顔立ちがそれなりに整っていて、勉強も体育も一目置かれる程度に優秀だったためいじめには発展しなかった。だが仮にいじめにあっても、彼はほとんど気にしなかっただろう。学校に通うのは彼にとって親を心配させないための義務でしかなく、楽しさなんて最初から求めていなかったからである。

だが、そんな彼でも、少し前に新しい父親となった男が日本へ帰る事が決まったから母さんと一緒にお前も日本へ行こうと言われた時は内心動揺した。言葉の問題ではない。この男の影響でいくつかの日本語は覚えたし、今から勉強すれば、自分の頭の出来なら日本に着く頃にはかなり日本語は達者になっているだろう。

まず一番嫌だったのは、死んだ父とすごしたこの家、国を離れ、新しい父親の国に行くこと。それは本当の父との思い出を捨てるようなものだと彼は思った。そしてもちろん母への憤りは増すばかりだった。

次に嫌だったのはやはり、未知の世界での学校だ。今までは関わるなと言えば放っておいてくれた。それは言葉が通じるのもあるし、なにより彼の家の事情を以前から知っている近所の知り合いが多かった。それに一部にちょっかいをかけてくる者はいても、対して彼に執着したり興味を持つ者はいなかった。それが、日本人の中にかこまれた1人のイタリア人となると話が違う。最初は特に物珍しげにされるだろう。そして周りが自分に興味を持たなくなるのにはかなりの時間がかかるだろうし、今度こそイジメにも合うかもしれない。彼は他人に興味こそなかったが、積極的にイジメられたり嫌われたりしたい訳ではない。ただ遠巻きに放って置かれたいだけなのだ。