「叔母さん、まだ結婚の催促する?」

私はラタトゥイユをスプーンでぐるぐるかき混ぜながら聞きます。
ラタトゥイユはハナちゃんのママのお手製。私が叔母さんのラタトゥイユのファンだと言ったら、作ってくれました。

「女性専用介護つきマンションのパンフレットがうちにあってね」


冷蔵庫で冷やしたラタトゥイユは、セロリが主張しすぎず、絶妙の酸味。


「お母さんここ入るのって聞いたら、ハナの為にパンフレットもらってきたのよ、だって」


ごくん。冷たいラタトゥイユが喉を通ります。

食道には熱さを感じる神経はないから、冷たいラタトゥイユの温度も感じないはずなのに・・・ 冷たいものが胃に落ちてくこの感覚。


「お母さんはもう、結婚しろって言わなくなった」


ハナちゃんの来てるアロハシャツのサイズは、正真正銘ハワイアンサイズ。
ハワイアンがシジミ柄をデザインするかは置いといて。

「結婚だけが女の幸せじゃないのよとか言っちゃって」


私は再びラタトゥイユをスプーンで混ぜる。
分離したオリーブ油は、完全に混ざることはない。


「なんで結婚しろって言われるんだろうね。なんで結婚しろって言わなくなるんだろうね。」


このシジミ柄のアロハシャツをチョイスする素敵な従妹を、ちゃんとわかってくれる人は何処かにいるんだ。


ちょっと赤い糸が長すぎて絡まってるだけ。
もしかしたらその糸はもう色褪せて赤じゃなくなってるかも。


ぷぅっとハナちゃんがオナラをした。

ぶっと私は噴き出した。

「行こうよ、婚活パーティー」

私はビールを飲みつつ言った。

「だな」

ハナちゃんはゲップと同時に返事した。