黒の魔法師

「準備は良いですかー?」
先程右から二番目に居たカラフルな外見の教師が審判として声を掛けた。
実技は対戦形式とされている。
勇の対戦相手は中央に座っていた男教師。
「生徒は自身の有するモノ全てを使い、アレを倒してください。たまぁに在ることなのですが、回復不能になる攻撃は出来れば避けてください。教師側は生徒に骨折以下の攻撃にしないと教育関連の職はクビで雇用もされませーん」
歳上の教師をアレ呼ばわりするカラフルな教師。
だが何回も繰り返された言葉なのかいい加減な口調にも関わらず、誰もこのカラフルな教師の言葉に突っ込む教師は居なかった。
「では三秒前からカウントするのでゼロになったらスタートです」
ふざけていた口調が真面目なものに変わった。
それと同時にこの場の空気も張りつめたものに変わった。
勇は真っ直ぐ男教師を見据えて。
反対に男教師は勇を見下した目で見ていた。
「さん」
カウント開始直後勇と教師は構えの体制をとった。
「に、いち、ゼロ!!」
「うぐっ…」
開始直後、男教師がうめき声を発してそのまま崩れた。
男教師の懐には腹部に一発拳を繰り出した勇が居た。
「そこまで!!」
その状態を目視したカラフルな教師は直ぐ判定を降した。
その後カラフルな教師は直ぐに勇と教師を引き離した。
だがその男教師は意識を失っていた為、直ぐ床に寝かせられた。
正確にはカラフルな教師が捨てたように放置し、一言も言葉を発していない一番左の男教師が面倒臭そうに邪魔にならない所まで引き摺った。
「いやぁ凄いねキミ」
その様子を完全に無視し、審判をしたカラフルな教師は拍手をしながら勇に近づいた。
「ちょっ、待ってください!!」
「どしたの?」
左から二番目に居た女教師が声をあげ立ち上がった。
その声に審判のカラフルな教師は勇に近付く足を止めて振り返った。
「今のは“瞬足”の魔法式のフライングでは…」
右端の中年の男教師も女教師と同じ考えで、驚きながら具体的な事を口にした。
瞬足は速く走るための魔法。
加速や脚力を上げたりして速く走るために幾つかの魔法を使った時に使われる魔法師用語。
魔法式はその為に組み上げられる式、所謂魔方陣の事。
魔法式には個人差が有れど組み上げるまでに多少の時間を要する。