タイム・シークレット・バンド


 俺たちは、古傷を舐め合う、クソみたいな関係だ。

 (あーあ。)

 背負った悪友を抱え直す。
 例のごとくお酒に潰れた悪友を背負っての帰り道。

(あー、また重くなりやがって、こいつ)

 こうなる事が分かっていながら、こいつの酒に付き合ってしまうのは、俺自身の気持ちもあるんだろう。
 
(あの時に戻りたい、あいつに、会いたいっていう・・)

 俺は普通のサラリーマン。
 高校を卒業して、どうってことない中小企業に就職。どうってことない平凡顔。
 最近、女にも見向きもされない。逆に俺の存在を認識している女はいるのだろうか。
 ついさっき。俺がいるにもかかわらず、こいつは女に逆ナンされていた。
 だからか。
 今夜はいやがおうにも、考え方が卑屈になっていく。

 ああ、寂しくなってきた。

 平凡を絵に描いたような俺と、非凡なこいつ。
 どう考えたって、共通点のない俺ら。
 こんな風に一緒にいるのは、むかし。

 とある、バンドを組んでいたからだ。
 同じ高校の同級生同士で組んでいた。

 あのバンド。
 あの音と、あの景色を思い出すだけで。
 
 そこには、一人の少女の笑顔があって。

 ーーーーーーーーーやめよう、忘れよう。
 
 あれは、もう、過去のことなんだ。

 いや、違うだろう?

 もう一人の俺がささやく。

 俺は、バンドに命をかけていた。今思うとそうだった。
 バンドで生きていく、そう思っていたし、その現実が続いていくと思っていた。
 それなのに、今、俺はしがないサラリーマン。どこに行くにも平凡で、普通で。
 どこにだって代わりがいるような、そんな存在。
 あの時は想像もしていなかった、今。
 それが、俺だ。

 それもこれも、あいつが、いなくなったせいだ。

 過去にずぶずぶと沈んでいく。
 傷の舐め合う関係、それが俺たちだ。