「本当に浴衣着ないの?」


玄関まで見送りに来たママが、残念そうに肩を落とす。


「着ないって。一人で行くのにそんなに張り切れないよ。」


「ママので良ければ似合いそうな色のあるのになぁ……。」


「今度着るからさ。」


「行ってきます!」と言って、あたしは玄関を出る。



もう夜だというのに、蒸し暑い。


夏の虫の音色が、辺りに響き渡る。



子供の頃、何度も通ったこの道。


中学3年生の夏、洸ちゃんの元まで走ったこの道。



懐かしい気持ちが、胸を焦がす。



あの頃のあたしは、何であんなにもがむしゃらに自分の気持ちに素直になれたんだろう。


洸ちゃんへの思いに真っ直ぐに向き合えたのだろう。


あたし達の何がそんなに変わってしまったんだろうか。