すると、気配を殺しているつもりなのか、
朔空が階段をそろりそろりと
登ってくる振動が伝わってくる。


氷薇の元総長が、
表の世界で就職したからと言って、
こんなに落ちぶれていて
大丈夫なのかな…


わざとゆっくり歩いて
自分の部屋の前で立ち止まった。

あと1メートルもないと思う朔空の気配が
背後にあるのを知っておきながら、だ。



振り向かずに言ってみた。


「…さっきから気付いてたけど…?」


すると、
少し微笑する息遣いが聞こえて、




「今俺傷ついてるんだけど。」




突拍子もないことを言われたと思った私は、
怒ると普通の時よりも
格段と喧嘩も強くなり、
とにかくいつ収まるのかわからないから、
なだめるという
一番適切だと思う判断を、
自分に下した。




「どうして?
私、何かしたっけ?」




「…さっき、俺に
『血がつながっていない』
って言ったよな?」




「…っ!!」



それか!
だ、だってさ…
いくら兄でもさ?
この年にもなって、
血のつながりのない男に
着替えを手伝ってもらうほど
幼くないって意味で言ったのだけど…




「…恥ずかしいかなら、
そうと言えよ。
…さっきの言い回しは、
俺にとっては酷だった。」



「ごめん…兄ちゃん…!」




とっさに出てしまったけど、
そんなの冗談だと
わかっているものだとおもってた。


でも…
分かっていても
苦しめる。
気にしないようにしても
壁になる。
伝えようとしても
遠慮すべきかと一瞬迷う。


言葉は、
きちんと伝えないと。