距離を測っているんだ、と彼は言った。

何の?と聞いた私に、彼は少し考えてから口を開いた。

こんなに親しくなった女性は初めてだから、と。

母親とも姉とも妹とも、――最も俺には妹はいないから正確なところはわからないけれど――、従姉妹とも違う、君との距離を測っているんだ。

測らないでいいのに、と私が言うと、彼は首を振る。

いや、測らなくちゃいけない、と言う。

なぜ、と私は言う。

彼はまた首を振る。

だって測らなくちゃ、どこまで近くていいのか、わからないじゃないか。そうしないと、僕は君との距離を無くしてしまいそうだ、それではいけない。

そうかしら。私は首を傾げる。

何故、と、今度は彼が訊いた。

だって、距離なんか、無くなってしまえばいいと思っているのに。

指先よりもっと、近くに、と思ってる。

近くって、どれぐらい。言った彼の指が私の手に触れた。

測っていいよ、と、私は言った。

考えるより簡単なことよ、と、私は言った。


彼は、私を抱き締めた。距離は、ゼロ。


測ったら、こんな距離だ。彼が、言った。

君はどう思う、と彼が、言った。

私は笑って、彼の背中を抱き締めた。