カバンがない!
京子はあの後いえに帰って初めてカバンをあの男に持ってもらってることに気がついた。
あの中に財布も全部入ってるのに!
どうしよー!どうしよー!

「ピンポーン」

家のベルが鳴った。

こんなときにだれだろ?

「ちょっとまってくださーい。」

急いで扉を開けると

「...こんばんわ」

「がタン!」

扉を閉めてしまった。
なんであの男が家をしってるの?
追いかけられた?
でもそんな感じなかったし!

頭の中がアタフタしていると

「すいませーん。ただカバン返しに来ただけなんすけど」

扉の向こうから声が聞こえる。

だんだん落ち着きを取り戻してきてドアを開けると。

「あんたさー、いきなり逃げ出したり人の顔見てドアすごい勢いでしめるのってどう?」

やばい!怒らせちゃったかもしれない。

「すいません!驚いていて、悪気があったわけじゃないんです。」

しばらく沈黙が流れて、部屋の中をジッと男がみている。

「あれ」

「はい?」

「あれ何?」

男が指差したところには大学の時描いた絵があった。

「あぁ、あれは私が大学の時に描いた絵でお気に入りのだったので家に飾ってあるんです。なんの賞にもひっかからなかったヘタッピが描いた絵なんで飾るなんておこがましいとおもうのですがね。」

「ちょっと近くでみていい?」

男がそういって勝手に部屋にあがってきた。
男の人なんて家に入れたことないのに!
けど今日部屋は綺麗だから不幸中の幸いってヤツかな。

「これ好き。」

「この絵が?」

男は黙ってうなずく。

「今は何やってんの?」

「えっとねー。去年会社辞めちゃって今はフリーターなんだよね」

「なんでやめちゃったの?」

この人なんなんだ?そう思いながらも

「仕事の人間関係とかいろいろあってね。」

「違う。絵だよ。バカなんだね。本当に。会社やめて正解だよ。」

なんなんだこいつは!
なんで会社と自分のことを言われないといけないんのと思い、この男が嫌なヤツだと思った。