手袋をしているのに手がなんだか肌寒い。
僕はふと空を見上げて呟いた。
「彼方に会えて嬉しかった。」
彼方(かなた)とは、3ヶ月前まで付き合っていた女の子。名字を、雫山(しずくやま)といった。友達は「そこそこ」って言うけど、凄くかわいい。身長は小さめで、大きな瞳が印象的な、13歳。
ここは公園で、よく彼方と遊びにきた。思い出のカフェオレを自販機で買う。いつもは2本買ったのに1本なのが悲しかった。
何がいけなかったのだろう。別れは突然告げられて、「もう友達に戻ろう。」なんて、テンプレどーりの事を言われた。
それから一週間後、彼女は西宮中学から転校していった。
カフェオレが少なくなっていく。それにつれて、僕の思い出が消えていくような気がしてきた。
「隣、良い?」
僕の腰掛けていたベンチに、名門高校の制服を着たお姉さんがすわる。
「どうぞ」
端に寄った時、お姉さんの顔を見て驚いた。
「彼方…」
お姉さんと同時に、彼女の名を言った。お姉さんの顔は、彼方に超似ている。
「彼方のこと、知ってるの?」
お姉さんが、鳥のさえずりのような声で聞く。驚くほど、彼方に似た。