「昨日の夜、父さんと母さんの会話聞いてて知っての通り、西山市に引っ越す事になったの。」

「うん・・・何で?」

「それはぁ・・・」
急に母さんの顔が曇って言いづらそうな表情になっていくのは分かったけど、どうしても真実を問いつめたくて・・・。
「どうしても言えない事なの?引っ越す事は許す気になれないけど、せめて理由は聞きたいっ!!」

「そうね・・・。話したほうが楽ね。父さんは何で私達の生活を支えてる?」

「それは、当然働いてお金貰ってでしょ?」

「そうよ・・・。仕事は何か分かる?」

「ん〜?夜中まで遅く働いてるのは分かるよ?考えた事なかったなぁ?」

「そうね・・・。考えた事なかったのは当たり前だと思う。父さんはね、偉い、組の組長。だからね、上の方の人達、父さんを信頼してるの。だから遠い西山市に転勤させたのよ?」

「へぇ〜。でも組の組長ってどういう事?」

「組長って・・・。立花組の。借金の取り立てとか、とりあえず上の方の指示に従って部下達を動かしてるの。」

「そうなんだぁ。僕も大きくなったら分かるよね?」
「うん・・・。絶対分かるから。あっ!今日の午後、姫音ちゃんママと姫音ちゃん来るんだったわ。いけない・・・。用意しなきゃ!玲音も手伝ってちょうだい?」

僕は“姫音ちゃん”って言葉だけを聞くだけで急に笑顔になっちゃうんだ。
だから、元気に答えた。
「うん!」

引っ越しの事も忘れて…