美依は、心配されることや支えてもらうことに対して、申し訳ないといった気持ちを持たない、持っていたとしても少しも行動に表してくれない由布が憎かった。ゆー、私たちを見て、と怒鳴りたい思いに駆られた。

 七時間目の始まりを告げるチャイムが鳴り始め、一度己の席に戻らなければならなくなった時、せめて嫌味の一つでも言っておきたいと思った。由布の事情も分かるが、今由布の近くにいるのは『彼』じゃない。


 現実にいるのは私たちだってこと、忘れないでね。


 チャイムの音に掻き消されて他の子には聞こえない。由布の耳元でささやくと、泣きそうに顔を歪めていて、美依はひどく昏い愉悦を覚えた。


 合唱コンクールの練習は放課後にまで及び、由布が家に帰ってこれたのは午後五時を過ぎてからだった。

 部屋着に着替えるよりも先にケータイの充電器を探し出し、プラグを押し込んで電源を入れ、画面に光が戻るのを今か今かと待つ。見慣れた待ち受けはこの前の五月一日、ゆーまから贈られたスズランの花束だ。現物は枯れてしまう前にドライフラワーにしてしまった。