何人かのクラスメイトと目が合う。すぐ気まずそうに視線を逸らされてしまったけれども。

 由布と美依から目を背けてお喋りに花を咲かせ、また別の子は机に突っ伏して眠るのに戻り、あるいは授業の予習を始める。この数秒は何もなかったかのように。

 ゆーは何歌うか知ってるっけ。あ、後で楽譜配るからなくしちゃダメだよ。

 手首に指が巻きついている。細くて白くてピアノが似合いそうで、爪が綺麗で、普通の子が普通に手を繋ぐのを求められたら舞い上がってしまいそうな人の、美しい手だ。

 この手がゆーまのものだったら良いのに。美依の所属する女子グループへ連行されながら、由布はそんな不謹慎なことを考えた。

 ゆー、ご飯食べよ。
 ゆー、音楽室行こ?
 こら、ゆー。またメールばっかりして。

 いつも、美依に気遣ってもらっていることは分かっている。

 六月になってもまだクラスに馴染もうとしない由布をじれったく思っているのだろうし、たまに、こんな風に不機嫌そうな美依も見る。苛立たせているのは、自分だ。


 ゆーはソプラノとアルトどっちが良いの?
 ……楽なのはどっち?

 女の子らしい、鈴を転がすような声が回想の声とダブって聞こえ、由布は返事をするのに少し遅れた。