「俺、付き合うことになった」




日曜の昼下がりのこと。

いい天気だったので、布団をベランダに干したり、家中掃除したりと、まあ、わりかしいつも通りなのだけど。


藍くんが私の背後でそう声をあげた。


あんまり急で、なんのためらいもなく言うものだから最初は理解できなかったけれど、

藍くんはそのあと繰り返し、「一年の女子と付き合うことになった」と告げた。



ほんの少し胸がざわついたけど、

すぐにいつも通り、言葉を返した。




「そう、嬉しいの?」

「別に」

「そう」




相変わらず、彼の言葉も考えてることも、何もかも分からないけれど。

もう、考えるのは大概にする。

考えたって無駄だと最近思い始めた。

私が、藍くんの何もかもを分かったとして、私が変わることは何一つないのだから。




「桐ちゃん」



さっきまで、少し遠くから聞こえていた声が、すぐ側まで近づいていた。

ベランダに出ている私の腰にまわってくる彼の腕を、優しくどかした。




「彼女がいるのに、こんなことしていいのかしら」


「いいんじゃね」


「藍くんは本当に最低のクズね」


「なんとでも。俺には桐ちゃんしかいない」


「どうだか。信じられないし。私とは付き合わないのにその子とは付き合うのね」


「別に。付き合うって言ったのあっちだし。俺はいいよって言っただけ。」


「彼女に不誠実だと思わないの?」



つい、強めの口調で言葉を発していた。

彼がどんなにクズだとしても、やっていいことと、悪いことがある。

私を好きだといいながら、誰かと付き合うことに関して、私が何も思わないわけではない。




「桐ちゃんがどうしても別れろっていうなら別れる」


「そんなこと言わない。ただ、何も考えないで、気分で誰かをむやみに傷つけたりしたら、

あとで倍になって返ってくる」


「何も考えてないわけじゃない」



今度は藍くんの口調が強くなって、不意だったので、ドキッとした。

藍くんの目は笑ったりしてなかった。




「俺は、桐ちゃんしかいないし、桐ちゃんだって俺しかいない。

それに、こんなに性格悪いやつと一緒にいれるの、桐ちゃんだけだ」


「そうね、それだけは言えてる」



誰がどう見ても、歪だ。

ガタガタと、今にも外れそうな歯車なのに、それでも、決して離れることはない。


私たちは

変わらない。