藍くん私に触れないで‼



布団を投げ捨てて、私は一階へ降りていった。

すると、お母さんと、珍しくお父さんもいた。


「え!?あんた、いつ帰ったの」

「昨日。けど、またすぐ行くよ」


とりあえずお風呂に入ってから、まずは月島さんの家に行こう。

居るか分からないけど、もし居なかったら待つしかない。

風呂に入り、服を着替えて、私はすぐに家を出た。


身体中疲れて、頭もあまり働いてないけど、私は今やるべきことをしないと。

私のために。


アパートへ戻ってきて、階段を駆けあがり月島さんの部屋のインターホンをならした。


するとすぐドアがあいた。



「どーぞー」


「あ、はい」



なんか、待ち構えていたみたいだ。



「山花は?」


「学校行った。ちなみに昨日は勉強漬けにしてやった」


「お疲れ様です」


「で、なに?なにが聞きたい」



本当に、全部、予測されているみたいだ。

月島先輩は、私と藍くんが再会する前の藍くんを知っている。
藍くんに聞けない今、私はこの人に全て聞くしか方法がないのだ。

にしても、少し意外だ。

教えないって追い返されるのも考えていたのに、こんなにあっさりと事が進むものだろうか。


「なに」

「いや、月島さん、少し変わったのかなと、」

「変わったのはそっちでしょ。前より全然マシになったよ」


そう、かな。

よろこんでいいの


「まず、月島さんは藍くんといつ知り合いになったんですか?」


「中学の時。学校同じであいつが委員会の後輩だった。俺が委員長だったのと、あいつの素行が悪かったから接点が結構あった」


「…そうだったんですか。じゃあ、知り合ったときにはもう今みたいな感じだったんですね」


「まだましだったと思うよ。あいつが高校に入る前に、あいつの母親が死んだから、俺が隣に越してくればって誘った。
高校とか全然どうでも良かったみたいで、とりあえずこっから近いとこ受けたらしい。
まあ、あんたが居るとは知らなかったと思うよ」



月島さんはいたって真面目に答えてくれた。

もちろん、嘘を言ってるわけじゃないというのはわかる。だけど、彼のお母さんが死んでいたなんて、知らなかった。

ここに来た経緯も、そういうことだったんだ。



「藍くんの病気は、いつから」


「俺が知ったのはあいつがこっちに越してきてから。心臓が悪いらしい。
白木の母親と同じ病気だって。遺伝性のある病気。

だから、長くは生きられない。ただ、完全になにもできない訳じゃない。臓器移植をすれば、まだ希望はある。けど、今の日本じゃ臓器移植なんてすぐ出来ることじゃない。
それから、莫大な金がいる。

あいつには入院する金もバイトする気力もない。

今あいつは母親の保険金でなんとか生きてる状況だ。」


「あと、どれくらいなんですか。藍くんは」


「さあ。薬だけでまだ持ちこたえているけれど、いつ、どこで体調が崩れるかも分からない。
来月から入院するよう医者からも言われてる。だから、あいつは最後の三ヶ月をお前と過ごすって決めたんだよ。

全部、隠すつもりでな。

三ヶ月で、あんたの前からまた姿を消すつもりだった」