もう、いいや。

好きがなにとか、めんどくさいよ。


必要だ。


藍くんが、必要だ。


あなたが居ないと、寒い。

心が痛い。

私が、私じゃない気がする。



だから、私は、あなたを失うことをこんなにも恐れて、自分を失いかけている。



「少し、考える時間が必要みたい」


「そ、で、今日はどこで寝る気?」


「私の家に帰る」



山花は月島さんの家に泊まって勉強合宿するつもりらしく、目を輝かせながら私に手を振った。

月島さんも月島さんで、とにかく眠そうで抵抗する気力もないという感じだった。

山花もほんとよくやると思った。


私は、月島さんの部屋を出ると、一度、藍くんの家の前にたった。


特に考えなしに、開くはずのないドアに手をかけた。


ガチャ


ドアが、動き、ほんの少し開いた。

鍵が、かかっていなかった。


いったい、何のつもりなのだろう。


私が、このドアを背にしていたときから、ずっと、このドアは開いていたということ?

藍くんのこと、やっぱり、分からないわ。


暗がりのなか足音を立てずに、中へ入った。



彼は寝ているという確信があった。


案の定、ベッドの上でドアに背を向けて布団もかけずに藍くんは寝ていた。


ゆっくりと藍くんに近づき、布団をかけた。


私は、ふと、机をみた。

乱雑に散らかった、薄い銀色のプラスチックのようなものが見えた。

それから、コップが横たわって、中の水が机を浸していた。



藍くんの机はあまりいじらないようにしていた。

本人も見られたくないものもあるだろうからと、藍くんの部屋は掃除もあまり隅々までしないよう心がけていた。


だから、見過ごしていたんだ。

彼の机の引き出しには、1つだけ鍵つきの引き出しがあって、それが今開かれている。


たくさんの、薬が引き出しに収納されている。




彼がいつも寝ているのは、

もしかしたら、このせいだったのかもしれない。




何度も、彼の部屋を掃除した。


何度も、彼の寝顔を見た。




それなのに、

私は、どうして、気づかなかったんだろう。