サキが私の心配をしてくれているのはわかっている。


でもそれ以上に私はサキ達が心配なのだ。


「早く行け!」


私はサキを見ないで叫ぶ。


するとサキはグッと唇を噛んで馬の元へ駆けて行った。


私は剣を握る手に力を入れる。


マッドネスウルフが動く気配はない。


ポツ__________


ポツポツ、ポツ_____


突然、雨が降り出してきた。


思っていた通りだ、と心の中でつぶやく。


後ろを振り返ると、馬に乗って遠ざかる四人の姿が見えた。


私は再び前に向き直り、目を瞑る。


「剣に眠りし竜の力よ、今解き放たれん」


そう唱えると、ポウッと剣が紫色に光りだした。


これは本で読んだものだ。


使うのは初めてだったりする。


そっと目を開け、剣越しにマッドネスウルフを見据えた。


ドクドクと剣から力が伝わってくるのがわかる。


「たぁっ!」


勢いよく地面を蹴り、マッドネスウルフの正面から斬りかかる。


それに気づいたマッドネスウルフは前足で私を叩こうとする。


私は咄嗟に身を翻し、前足を思い切り斬りつけた。


《 ギャァァァ____ 》


マッドネスウルフが一瞬ひるんだ隙に、腹のしたり潜り込み、剣を振るう。


《 グアアアアア______ 》


頭と前足と腹部から血を流したマッドネスウルフは、フラフラしながら二、三歩歩いた。


私はさらにそれに追い打ちをかけるように背中を斬りつける。


《 グアア____ 》


ようやく、マッドネスウルフは地面に倒れこんだ。


「はぁ…はぁ…はぁ…っ」


私は荒く肩で息をしながらマッドネスウルフを見下ろす。


足からはドクドクと血が流れ出ている。


その時、マッドネスウルフの目がカッと見開かれ、見えない刃が飛んできた。


「うっ…」


一瞬の出来事に避けることができず、体に数カ所か切り傷ができる。


「あぁ…っ!」


その一つが怪我をしている足に命中したらしく、痛みが増す。


その痛みを我慢できず、思わず膝をついてしまう。


その目の前で、ゆっくりとマッドネスウルフが立ち上がっていた。