「……まあ、付き合ってないなら良いんだけどよ」


ケントはぷいっとそっぽを向いて前を歩いてしまった。

「速いってば」

「遅かったらアイツと合流するかもしれねーだろ。それはアイツにとっても居心地悪いだろ」

そっか、同じ方向だった。

……何だ。

考えてない風に見えて鈴木くんまで気を使っているのか。


「なら、俺の一人相撲かよ」

「え?」

「さっきのだよ。アイツに牽制張ったりしてかっこわりー」

牽制、だったのか。

私と鈴木くんが付き合ってると思ったから、あえてケントの裏の顔を見せて……。

自分を落としてまで、私との関係性を優先しようとした。


どうしよう、嬉しい。


「カッコ悪くなんてない。アンタは意外とカッコいい、と思う」

「好きだって言うなら確信を持って言えよ」

くくっと、ケントは笑った。

いつもみたいな作り物じゃない笑顔が、結構嫌いじゃない。


「つーか、今更だけど。何で名前で呼ばない訳?」

そう言えば、一度も呼んだことがない。

ケントを呼ぶ時は大抵、アンタかねぇで通じるから……。


「アンタが名前を呼ぶなって言ったから……」

「それは学校だけ。家では指定してないだろ。それに告白するなら普通、名前で言うだろ」

「こ、告白!?」

改めて口に出されると、吹っ飛んだ羞恥心が帰ってきてしまうじゃないか!

この二次元オタクの私が、三次元に恋して告白なんて大それたことをして、今思えば死ぬほど恥ずかしい!


「じゃねーの?誰を好きなのか言ってみろよ」

ああ。

ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて、私を見透かすように視線を動かす。


腹が立つ、恥ずかしい。


けど、その分可愛いと思えてしまう。


「ケントなんて大っ嫌いだ!!」


だからこそ反抗してしまう。

四月から刷り込まれたこのクセは、直せそうにないみたい。