地面と向き合いながら歩く。

くそう、コンクリートなら埋もれようがないじゃないか。


瞬間、腕をきつく引かれた。


「えっ?」

慌てて前を見れば、顔面すれすれに電柱が立っていた。

うっそ、危ないじゃん。


もしかして、助けてくれた……?


「……阿呆。俯いて歩いたら電柱に当たるのは考え付くだろ」

私の腕を掴んだまま、ケントはそっぽを向いた。

そむけても、真っ赤な耳は見えている。

それに、腕越しに伝わってくるケントの熱に、速い脈の打ち方。


これは、もしや。
ケントは、動揺しているんじゃないか?


「ねえ」

助けてくれて、ありがとう。

そう、言おうと近づいただけなのに、ケントは過剰に反応して距離を取ろうとする。

何だ、面白い。


「……寄るなよ」


真っ赤な顔で、距離を詰め寄る私を押す手には全然力がこもってない。

「もしかして、さっきの私の言葉、聞こえてた?」

「……この距離だからな」


ケントが好き。

私のこの言葉で耳まで真っ赤にするってことは、悪い意味ではない……はず。


だって、乙女ゲームの攻略キャラ達が赤くなる時はいつもハッピーエンドだったし。


「冗談だって言ったら?」

「嘘で好きとか言う奴なのか!?」

親の仇、とでも言わんばかりに目をひんむくケント。


「いや、違う。本心だけど」


開き直ってしまえば、先程までの恥ずかしさもなくなるもので、堂々と言える。

吹っ切れた、という奴だろうか。

さっきの鈴木くんみたいだ。


「意味分からねぇ」

「ん?日本語通じないの?えー、アイラブユー……?」

「いや、そうじゃなくて」

みるみるケントの耳が赤くなる。

うわ、何だろう。


好きな人が私の言葉で照れるのって、凄く嬉しい。


「お前、鈴木くんって奴と付き合ってるんだろ?」

「え?何で?」

「ふわふわした小さい女が、同じクラスのふわふわした男に言っていたのが聞こえた」

ふわふわした小さい女?


私の名前を出すのなら、アリス以外にいない。

それに、ふわふわした男という説明が部長さん程似合う人もいないし。


お節介を焼いてくれるのは嬉しいけど、即部長さんに言うのはなー……。


「それはちょっと、アリスが勘違いしただけで」

「勘違いされるようなことをしてたんだろ」

ぐ。


否定できない。

まあ、確かに、抱き締められてました。