私は夢を見てたんだ。

自分にとって都合の良い夢を。


カーテンの隙間から差す薄明かりを眺めながら、頬を掴んだ。

「いひゃい」

これは夢じゃない。

でも、さっきのは全部夢。


お陰で私が何でお兄ちゃんという生物を欲しがっていたのか分かった。

ただの憧れだった。

無い物ねだりをしている子供だった。


でも天の邪鬼な私は実際に目の前に幻覚が現れても、素直に喜べなかった。

わざと冷たい態度を取って、相手がどんな対応をするのか楽しんでいたのだ。


ああ、阿呆らしい。

ああ、恥ずかしい。


昨日は制服を着たまま意識を失ったから、良い具合にシワがついている。

どうでも良い。別に死ぬ訳じゃないんだから。

立ち上がるとネクタイを緩めた。


こんな気分の時には風呂が一番だ。

晴れることはないだろうが、ストレス解消には良いだろう。


なんて、ね。

フラついた足ではまともに立てずに、すぐに倒れ混んでしまった。


ウソ。ウソウソウソ。

冷静に状況を判断しているフリをしているだけだ。

本当は、もう、いますぐにでも。


「ううー……ケントが、あの笑顔が夢だったなんていやだよー。ひっ、うっく」


泣いてしまいたかったんだ。


泣けば、泣くほどケントとの日々が頭を過る。

無邪気な笑顔、いたずらっ子みたいな顔、照れた顔。


今となれば下僕発言すら可愛らしい。



どうか現実であってと願う私を、ケントは阿呆と笑うだろうか?