ーーサクラ咲く季節……なんかに私がトキめく筈がない。

高校入って二回目の春だ。もういい加減飽きた。


だから、皆が登校する始業式をブッチして、布団の中でぬくぬくしながら一日中乙女ゲームしてエンジョイしたかった。

けれど、鬼が布団を剥いであの鉄仮面の様な笑顔で「秘密をバラすぞ、下僕」なんて言うものだから、渋々学校に来た。

くそう。逆らえない自分をどうにかしたいけどどうにもならない。




「久し振りー……どうしたの、ルル。いつもにまして暗いオーラ背負ってるけど……もしかして。ユウヒ様死んじゃった!?」

私の顔を覗き込んで、ウメは目を丸くした。

小学からの幼馴染みで、唯一の理解者だ。

私が暗い顔をしているから、乙女ゲームのキャラが死んだのかと心配してくれる、ウメが大好きだ。

「いや、大丈夫……ユウヒ様も誰も死んでないし、ルート選択も間違えてない」

「なら良かったー。てっきり、ゆいゆいの時みたいになったのかと思ってーー」

「くっ!その話しは止めて……今でも思い出すだけで涙が……」


ゆいゆいは私がオタク化する決定打となった、携帯乙女ゲーム“ときめきーず”のキャラの1人。


初めて攻略したのが、彼だった。


金髪碧眼、成績優秀なイギリスと日本のハーフの子。

本名はヒューイなんだけど、難しいからゆいゆいと呼んでいる。


あまり人気のないキャラだったけど、台詞に滲み出る優しさとか格好よさにハマって、献身的に奉仕(という名の課金)していた。

携帯ゲームだから基本的に無料だけど、奉仕する程、ゆいゆいは喜んでくれた。

ようやく、最後のルート選択によってハッピーエンドが開いた……筈なのに、そのエンドでゆいゆいは死んでしまった。

結ばれた翌日に内乱が起こり、逃げられないと悟った私とゆいゆいは二人で心中した。

このゲームは所謂、死エンドが最も深い愛とされるヤンデレゲーだったのだ。

死ネタを受け付けない私には、ショックでショックで、丸二日泣き通した。


今でも深い心の傷だ。


「あー、ごめんね。……じゃあ、何でルルは死にそうな顔してるの?」

「まー、それはちょっと訳ありでして……今度言うね」

「ん!待ってる!そうだ、今度のコミケどうする?参加する?」

「勿論参加する!」

「うっふふー!楽しみだなぁー」

頭にお花が咲いているかと思う程、ぽわぽわしたウメもまた私と同じオタクなのだ。

ちょっと、私とは違う分野のオタクだけど……


「アヤはコスプレでしょ?今度は何のコスーー「ウメじゃなくて、アリスだよ!」」


「そ、そうだったね……ごめんごめん」

本名の古いウメという名を嫌って、アリスと自身を呼んでいる。

日本人離れしたその顔立ちに合った名前だけど、小学からウメと呼んでいたから、どうも間違えてしまう。

自前の茶髪にハッキリした目鼻立ち。薄い唇に、真っ白いお肌。腰まで伸びる髪の毛を常にポニーテールにしている。

背は低く、人形の様だ。


友達ながら、本気で可愛いと思う。


「また騒いでるよ、あの人達」

ウメ……もといアリスの視線の先は廊下だった。

キャアキャアと黄色い嬌声が徐々に近付いてくる。最早恒例となっているので、誰も気にしないが、今日は偶々見てしまった。


一人の男の子の周りに、三人の女の子達がこぞって群がっている。

男の子も女の子も皆美形なので、凡人とは違った空気を放っている。

中心にいる男の子は満更でもない顔して、女の子達に返事する……が内心どんな事を考えているのか想像するだけで、愉快な気持ちになれる。


中央にいるのは、宮崎さんだった。


きっと女の子達は、宮崎さんがどんな性格が悪いのか知らずに追いかけているのだろう。

可哀想に、と笑うと、宮崎さんと目が合った。