「……おはようございます」
と、部室の戸を開いた。

「おはよーございます」
と、後ろからアリスがついてくる。


時刻に関係なく、芸能人スタイルの挨拶方式を用いているこの部活では、常に挨拶は決まっている。

こんにちはではない理由は、特にないらしく流れで決まったそうだ。


「うむ。毎日部活に顔を出すとは、良い心掛けだ。他の幽霊部員にも見習って欲しいぞ」

久しぶりにツインテールに甘ロリ服の部長さんの姿を見た気がするが、男子の制服を着ているよりかは断然似合ってる。

今日は、鈴木くんにヘッドロックをしている所だった。


ふむ。どうやら、強くなるための特訓らしいけど、毎度付き合わされる鈴木くんは青い顔をしている。


慣れてしまうと、最初の様なドキドキ感はなくなって、むしろ鈴木くんのタフさに驚くようになった。


「先輩、佐藤さんは来ないんですか?」

アリスは平然と机に荷物を下ろして、化粧道具や裁縫道具を広げていく。

尚も鈴木くんの顔は青ざめるのだけど、気にしていないみたいだ。


「佐藤か。アイツは仕事は良いのだが、いかんせんコミュニケーションを取れないヤツだからな」

「普段も来てませんもんね。学校祭前位はいて欲しいんですけどね」

アリスは馴れた手つきで針に糸を通すと、次の衣装の仮縫い作業を始めた。


私もヘッドロックをされてる鈴木くんを跨いでから、窓の近くの机に座った。

ここだと画材からも近いし、本からも近いから効率が良いのだ。


「そういえば、他にも部員さんがいるの?」

私が知ってるのは部長さんと、アリスと、鈴木くんと、ヨシノさんだけだ。

あと、名前だけならよく出てくる佐藤さん……この、五人しか知らない。


確か以前聞いた時は七人いるって言っていた筈だ。


「そ。佐藤さんと、サキとルキって子達」

「サキとルキ……?」

「一卵性の双子なんだよね、その子。一年生だから知らないかなー?」


例え同じクラスでも知りません……とは言わずに、曖昧に笑った。


「そろそろ、オレ等も本格的に学祭に向けて動かなくてはな。一ヶ月もないのだろう?」

「……かはっ!!……そ、うですね……」


鈴木くんはやっと解放されて落ち着く間もなく、答えた。

そして動物的な本能で部長さんから逃げて、私の前の席に座った。


部長さんはあからさまに不満げな表情で、つまらぬのうと呟いてから、鈴木くんから離れたアリスの隣に座った。