「“マサキくんへ。ルルね、マサキくんのことがずっとずっとすーー”「ぎぃゃあああああああ!!!!!」」

なんて物を見つけているんだ!それは、幼い頃の過ちのラブレターで、一番消したい過去なのに!!

焦りのあまり宮崎さんを突き飛ばして、手紙を奪った。

小学生になる前にマサキくんに当てて書いた、幼稚なラブレターは、マサキくんへの愛が綴られている。

ラブレターなのだから、当然渡す物なのにここにあるのは、彼が忽然と姿を消してしまったからだ。


だから、捨てたと思っていたのに……まさかコイツに見られるなんて屈辱的だ。


「重い。退けろ、クソオタク」

「へ?」

気がつけば、私は宮崎さんを押し倒していたみたいで、お腹に馬乗りになっている。

宮崎さんは私の下で呆れた様に、眉間にシワを寄せた。


「へ?じゃねーよ、ばーか。重いんだよ」


間近に見る、宮崎さんはキラキラ輝いている。いや、好きにはならないけどね。

ただ、女の子達が口を揃えて『宮崎先輩、格好いい!』と言う訳が分かった気がした。

端正な顔立ちとはこういう人を言うのだろう。


眼鏡の奥の切れ長な瞳に、整った目鼻立ち、イタズラっ気のある左側の八重歯。

優等生を匂わせる坊っちゃんヘアースタイルは腹立たしい位、良い方向に作用している。


つーか、何でお花みたいな良い匂いがするんだ。

二次元か、バカ野郎。


「ああ、ごめん」

ゆっくり降りて、顔を背けた。

この手紙、どうやって処理しよう。
こんな恥ずかしい過去の産物を、留めておきたくない。


そうだ、燃やして捨ててしまおう。
チリとなってしまえば、もう見る事はないんだから。


「なあ。それってラブレターだろ」


「…………っ、い、いや。違う、ます、けど」


そ、そう言えば……慌て過ぎて忘れてたけど、コイツに見られてたんだった。

人の記憶は燃やして処理なんて出来ないし、消せる程簡単な構造でもない。

意地悪な笑みを浮かべて、宮崎さんは私の手から手紙を抜き取った。クルクル回して、遊んで、何のつもりだ。


「動揺し過ぎ」

「う、うるさい!とにかくそれの事は全て忘れて!」

この二次元オタクの私が、三次元に興味あるなんて皆にバレたら、変に思われる。嫌われるかも。


「……これはお前にとって恥ずかしい過去なのか」


お腹に響く様な低い声は上手く聞き取れなかった。

「今、何て……」


「これ、お前のクラスメートにバラしたらどうなるんだろうな」


宮崎さんは暗い表情を一変させると、お母さんに見せる様な暖かい笑顔で、悪魔の呪文を唱えた。


「お前、俺の下僕決定」