知らないよ。

下僕になったことはおろか、男の子と話した経験はほとんどないんだ。

正解の答えなんて、知らない。


「……クラスメートには言わないで」

特にアリスには……バレたら、引かれてしまう。


「違う。正しい答えはーー」


*


「熱くないか」

「や、まあ、熱くないけど」


耳元を、ぼーっと慣れない風音が通りすぎた。

女の子としては短い髪の毛だけど、男の子に比べたら長い。

それなのに、ケントは慣れた手付きで髪を乾かす。


それにしても、リア充の正解って難しい。


“答えは、乾かして下さい。お願いします、だろ”

“え?そんなんで良いの?”

“もっと難しいのが良いのか。なら……”

“いや、大歓迎です。これが良いです”


てっきりもっと私の心身に深いダメージを与える事をさせられると思ったのに。

想像よりも単純で良かった。


しかしまあ、この腹立つ位上手な手さばきはどこで覚えたのだろう。

頭皮をマッサージする様に乾かされると、気持ち悪さを越えてくすぐったい。

相手がケントなのに気恥ずかしさを覚えてしまう。


「ったく。女のクセに髪の毛も乾かせないなんて、終わってるからな」

馬鹿にした口調なのに、やけに楽しそうな表情をしていたからあえて反論をしなかった。

怖いのか、馬鹿なのか、掴めない。

不思議な人だ。


……いやいやいや、こんな事でほだされてはいけない。

こいつは私の弱味を握っているんだ。

コロッと落とされては、更に弱味を見せてしまう事になるから気を張らないと。


待て、逆に弱味を握れば良いんじゃないか?

この完璧重罪秀才男を手玉にとって、鼻をあかせてやる!!


ざまぁみろ!

私を下僕と笑っていられるのも今のうちだ!