いやいやいや、ちょっと待て。一旦整理をしよう。

私は誰だ?

クラスのカースト最下位の通称、座敷わらし、黒野ルルだ。

重いぱっつん前髪は、目元を完全に覆い暗さを主張している。


お母さんが「少しでも明るくなる様に……」と肩より長い髪の毛は、かろうじて貞子を免れたけれど、座敷わらし感を際立たせる結果になった。


最小限しか外に出ていないせいで肌は異常な程白い。


良く言えば白雪姫(笑)の様な白さ、悪く言えば不健康な子供かゾンビだ。

勿論、後者の方が多く言われている。


身長は百六十五センチあるというのに、その影の薄さから、何度『星野さんがいませーん』と言われたか分からない。

運動神経悪く、音楽センスゼロ。

彼氏とか色恋には興味もないし、十六年間甘い話からは隔離されていた。

そうそう、そうだよ。これが私だ。

だから、目の前に学園の王子様とうたわれる宮崎ケントがいるはずもないし、ましてや「僕は兄だ。今日からこの家に住むことになった」なんて言うはずない。

……よね?


「もう。ルルったらー、緊張して固くなって。ごめんなさいね、この子人見知りしやすくって」

お母さんは逃げようとする私の右手をホールドして、宮崎さんの前に立たせる。
私よりも遥かに小柄なのに、どうしてこうも力が強いのだろう。

「いえ。お人形みたいで可愛らしいですよ」

お母さんに対し、にっこりスマイルを浮かべる宮崎さん。

好青年な雰囲気を感じる黒髪に、笑顔。けれど、眼鏡の奥の瞳が笑っていないのが、気になって仕様がない。

「良かったわねー、ルル。紹介するわね。この人はマサキさんの一人息子で、ケントくん。高校三年生で……」

「大丈夫ですよ、リリコさん。僕達同じ高校ですから、もうお友達ですし互いの事を知っています。じゃあ、ルルちゃん。部屋に案内してくれる?」

お母さんの会話を遮る様に、宮崎さんは言葉を挟んだ。
“互いに知っている”なんて、虚言を用いて。

「まあっ、良かったわー。二人とも仲良くて」

ニコニコ笑顔を見せて私達を見送るお母さんに、背を向けた。

あれ、私、自分から動いてないのに……と見渡せば、宮崎さんが私の腕を掴んで引きずっていた。
振り払おうにも力が強くて抵抗なんて出来やしない。

宮崎さんから漂う不穏な空気に戸惑う。

ちょっと待って、私は平凡地味な、ただのモブなのに?

何で、こんな非日常が繰り広げられてるの!!?




「えー、つーことで今日から俺がお前の兄らしい。何か文句あるかこの、クソオタク」

「文句ありまくりだ。チャラ眼鏡」


やはり、不穏な空気の通りにこの男は猫被りだった。
部屋に入るなり、本性を現しやがったな。この猫かぶり王子が。

「つーか、何だ。この部屋。酷いな」

宮崎さんは私の友達を蹴飛ばした。

「ちょ!これは私がオークションで競り落とした、等身大ユウヒ様抱き枕なんだから!!」

「知らんし、目障りだ。俺の目の前に置くな」


先程までの柔和な態度はどこへ置いてきたのか、大きくため息をつくと宮崎さんは座った。