「阿久津くんは本当に目の付け所がいいというか……。普通の男の子なら夕凪みたいなタイプ見もしないでしょう」
「そうかもしれませんね……」
「あんな爽やかイケメンに好かれてる夕凪が羨ましいな〜」
「……」
「ってこと。阿久津くんに取られちゃうかもよ?」
…え?
何ですか、その忠告みたいなの。
「ま、菜葉先生には関係ないっか!
…じゃあ先に帰るね」
「あ、はい。お疲れ様です」
「お疲れ様〜」
……はぁ。何だ…あの人。
僕の周りにはエスパー的な人が沢山いるんだな……。
「もう一杯、どうだ?」
「え?」
「初来店祝いにタダで作ってやるよ」
「…ありがとうございます。じゃあ、いただきます」
コワモテマスターは手際よくカクテルを作り出す。
カクテルなんてあまり飲まないな。
あ……。今日は飲んじゃったから車で帰れないじゃん。
電車だ…終電まではまだ時間ある。
「はい、お待たせ兄ちゃん」
「ありがとうございます」
「兄ちゃんも、教師やってんのか?」
「はい。そうです」
「さっきの話、聞こえちまったんだけど気づいたら生徒でも好きになってることなんて普通にあると思うぜ」
「……え?」
「千歳ちゃんには言ってねぇけど、俺は自分の生徒と結婚した」
ほら、と言って左手を見せてきた。
「あの、マスターさんも教師を…?」
「ああ。10年くらいやったかな」
「そうなんですか…」
「兄ちゃんと同じ高校教師だったよ。俺が30の時に高3だった女子生徒と付き合い始めて、三年後には結婚した」
「へえ…すごいですね」
本当にそういうのがあるんだ…。

