「葵花」
 「…?」
 くいっと、困ったように首を傾げる七瀬。
 あぁ…苗字も言わなければならない人種でもあったか…。
 「東雲 葵花」
 「しののめ…さん」
 そよ風が私達の間を通り抜ける。七瀬はさらさらの髪を鬱陶しそうに押さえながら、にこっと笑った。そして、私に近付いてくる。
 「よろしくね!!東雲さん!!」
 差し出された右手。私は無言でその手を見詰める。
 「あ、あれ…?」
 戸惑う七瀬を尻目に、私はさっさとお弁当を片付けて彼の横を通り過ぎ、出口へと向かった。

 靡く私の黒髪。
 それを目で追う七瀬。
 始まりを告げる鐘が鳴る。