「あり、がと…」
彼はハンカチを受け取って恥ずかしそうに呟いた。
「ううん。どういたしまして」
「ちゃんと、洗って返すからさ……」
彼はそう言いながら照れながらも、
汗を拭っていた。
「わ、わかった……」
そんな彼を見て、私まで何故か恥ずかしくなってきた。
どんどん上がる体温。
それは多分、瞬くんも同じだろう。
二人しかいない狭い狭い箱の中。
窓も、ドアも閉まっているこの箱の中でただただ2人の体温は上がっていくばかりだったー…。
ーーー…
それから、数分して他のクラスメイトたちもちらほら登校して来た。
「もおー!汐音ってば先に登校してるなら早く言ってよー」
登校してくるやいなや、私のとこへ駆け寄りプクッとふくれっ面をした真綾。
ほんっと、真綾のこーいうとこ可愛くてギャップ萌えしちゃうんだよね。
まあ。本人に言ったら怒るだろうから言わないけど。
「ごめんね。
連絡入れるのすっかり忘れててさ…」
えへへと後ろ髪をかきながら言うと、
「まあ、いいけどさ…。
それより、昨日のあの後大丈夫だった?」
心配そうに私のことを見る。
真綾たちには、病気のことは言ってある。
だからこそ、私が体調悪いと人一倍心配してくる。
「……うん、大丈夫だよ。
"変わりない"よ」
私がそう言うと、真綾は何か言いたげな顔をしていたけど、ぎゅっと口を結んでいた。
きっと、私の意図を汲んでくれたのだろう。
「……わかった。
……でも、無理はしないでね」
それだけ言うと真綾も自分の席につき、机に突っ伏していた。
そんな彼女の姿を見て、私は心の中でごめんね…と謝った。
ーー本当は分かっているんだ。
私が言う"変わりない"と言う言葉が、
本当は"進行している"って言う意味だって。
きっと私のついたこの嘘だって見破っているからこそ、何も言ってこない。
私の意思は2人には伝えてある。
治療をしない、するつもりはないと。
最初の頃は2人とも治療してほしいと懇願していたけど首を縦に振ることは一切なかった。