溺れ愛



ただ名前を呼んだだけで、少ししおらしくなった藤真由美は、今日はあっさりと解放してくれた。


それはそれで少し疑わしくもあるけど、好都合でもある。


今日はいろんなところへと足を運べそうだ。


足早に向かうのは、ご無沙汰の高木家だ。



「あ、良くん」



インターホンに手を伸ばした、その瞬間に聞こえた声。



「ヨウ。久しぶり。部活帰り?」



ちぃの4歳下の弟のヨウだ。



「いや、姉さんのお見舞い帰りだけど・・・とりあえず入れば」



ヨウのことは本当の弟のように可愛がっていて、本当の兄のように慕ってくれているのも知っている。

でも、そのヨウが少しそっけないのは・・多分知ってるんだろうな。


俺とちぃのこと。



「ありがとう。コウさんはいる?」

「いや、まだだと思うよ。でも今日は早く帰るっていってたし、会いたかったら待てば??俺も良くんに話あるしね」



これは・・・思っていたよりもお怒りかな?


ヨウは昔からちぃのこと大好きだからね。


今は中学1年生になっていろいろ複雑なのか少しクールを気取っているけど。


実際はちぃのことが心配で心配で仕方ないんだろうね。



「ちぃの怪我の具合はどう?」



紗絵さんもコウさんも不在なようで、ヨウの部屋へと直接やってきた。


青で統一されたその部屋は無駄なものは殆どないのに、二枚だけ写真が飾ってある。


高木家の家族写真と、ちぃとヨウと俺の三人でとった写真だ。


小さいときはよく三人で遊んでたからね。


本当に家族みたいなものだ。



「なんで良くんは見舞いに来ないの?」



怒りの含まれた声色で発せられた言葉。



「見舞いに行くたびに、姉さんは笑ってるんだ」

「・・・」

「目を腫らしてるくせに、無理矢理笑ってるんだよ。姉さんは単純だから、良くんさえ傍にいてくれてれば心の底から笑えるんだ。なんで・・いてくれないの?姉さんのこと、嫌いになった?」



苦しそうに訴えるヨウ。


胸に、刺さる・・・。