溺れ愛



405号室、ネームプレートに高木千愛という文字を見つけて立ち止まる。


どうやら中は電気を消して真っ暗のようだ。


それだけで中の様子が手に取るようにわかってしまう。


だから、入ることをためらってしまうんだ。


自分の都合でちぃを振り回して、自分の都合で会いに来るなんてね。


きっとちぃは泣きつかれて寝ているんだろうけど・・・。


それでも、俺のこの行動に罪悪感を感じる。


ちぃに、会いたい。


触れたい。


そばに、いたいんだ。


だけどそれが自分勝手な行動だと分かっているから。


ちぃを傷つける行動だと分かっているから。


ためらってしまう。


顔をみれば、抱きしめたくなる。


好きだと言いたくなる。


口づけたいと、思ってしまうから。


馬鹿みたいにちぃが好きでたまらない。


俺はいつだってちぃへの愛で溺れそうになるんだから。


ちぃが俺にくれる笑顔が、声が、温もりが・・・いつだって俺の背中を後押しするんだ。


ちぃ。


これで最後だから許して。


次に会いにくるときは・・・ちぃのことを取り戻すときだと誓うよ。



「・・・・・ちぃ」



決意して踏み込んだその部屋のベッドには小さい山がひとつ。


毛布にくるりとくるまっている、愛しい人。


ああ、やっぱりね。


泣いて泣いて・・・疲れて眠りに落ちたんだろう。


すっと、捲った毛布の下から現れたちぃの可愛い頭。


さらっと髪をよければ、その髪はわずかに水分を含んでいた。


ちぃの、涙だ。