その後。貫野と交渉を成立させた十一朗たちミス研部の行動は早かった。
 別れ際に、貫野から手渡された輸送会社の電話番号が書かれた紙。それを見ながら、十一朗は番号を押していく。
 相手を呼び出すコール音が三回なったところで、会社名を告げる女性の声がした。
 丁寧な口調から電話接客専門の事務員だろうなと十一朗は思った。それでも相手に不快感を与えないよう、十一年前の事件について語る。
 事務員は十一年前という忘れかけた殺人事件をあげられて困惑した様子だった。
「少々お待ちください。責任者と代わりますので」
 待ち受け音にする前に言った、事務員の声は震えていた。
 無理もない。関係者のひとりが死亡している凶悪事件だ。十一年経った今でも関係者は鮮明に思い出すことだろう。
 代わって出たのが中年男性と思われる太い声だった。名乗った苗字が会社名だったので、すぐに社長とわかった。
 二度目の説明となってしまったが、断られるのを覚悟で十一年前の事件について語る。
 事件の真相を聞いた仲間がショックを受けているということ。死んだ八木という男性が彼女の父親だということ。
 社長は少し驚いた様子だったが、詳しく知りたいのならと快く了解してくれた。急な願いにも関わらず、今日会ってくれるとも約束してくれた。
 輸送会社に向かう時間を使って、何を訊くのか段取りを決める。
 十一朗と裕貴の役割は、できるだけ詳しく十一年前の事件を社長から訊くこと。
 高校三年生なので就職活動と理由を付けて仕事内容も聞けるだろう。そう感じて伝えると、その役割はワックスが引き受けてくれた。
 十一年前の事件の真相。その中にヒントが隠されているはず。
 輸送会社に到着すると、会社の入口に立っている男性と目が合った。作業服ではあるが社長に間違いないだろう。まさか外で待っているとは思わなかったので驚いた。
「君たちが八木さんの親友かい?」
 電話と同じ太い声、そして優しい口調だ。社長は電話でも、十一朗たちを気遣ってくれている様子だった。それが行動にも出ている。声も接客業特有のものだった。
 十一朗たちは「はい」とだけ答えると、社長の次の言葉を待った。
「じゃあ、ここで話をするのもなんだし、応接室に行こうか」
 社長の手でガラス張り手押しの扉が開けられる。後ろは十一朗、裕貴、ワックスの順で続いた。
 来客受付を通り抜け、電話に出たであろう事務員の前を通過する。
 通りすがりざまに社長が、
「君、四人分のお茶を用意してくれ」と、事務員に頼んだ。
 まるで重役がきたかのような親切対応である。本来なら急に話を聞きたいと言った自分たちが、菓子折を持ってこなければいけないのではないだろうか。
 十一朗は申し訳ない気持ちになってしまった。とはいっても、後ろの二人は無関心のため、少し気分も紛れた。
 応接室に入ると、一番先に目に飛び込んできたのは高級感のある革張りのソファー。次に社会に貢献したと書かれた賞状。仲間の結束を示しているかのような、社員旅行の写真も額に入れて飾ってあった。
 社員同士がぶつかり合うような空気は感じない、居心地の良い空間がここにはある。
 高校生の自分たちも受け入れてくれる、社長の優しさがあってのものなのだろう。