8月の雪



「ありがとうございます。
…祐、304号室だって。」


受付の人に礼をすると、
黙々と歩いていく。


「祐、階段こっち…」

「あっそうだったな。
悪い、ど忘れしてた」


ハハッ、と苦笑いをしながら、
並んでいたエレベーターの列から外れた。


密閉された空間


が、苦手な美紗にとって、
エレベーターは恐怖の存在。

そのため、美紗と出掛けるときは、常に階段を使っている。


「…304…ここね」


一トントンッ


美紗が慣れたように二回ノックをするが、中からの応答はない。


「も〜またどっか出掛けてるの!?」

「あっおい、勝手に入っていいのかよ?」

「別にあたしとあの子の仲だし。」


音を立てながらドアを開くと、やっぱり中には人がいない。


「………?」




俺は入院したことないから知らないけど、
検査入院で、個室を使うって何か変じゃないか?




その時はたいして気にはならなかった。


別に俺は村上芙由ってこと知り合い
とかじゃないし、
今日以外に逢うことなんて、
ないと思ってたから…