バシッ


銀司の拳が白虎の頬を打つ。


「お前がついていながら、何してたんだよ!」


魔物を一掃して里へ戻ると、そのまま崩れるようにかぐやが意識を失った。


白虎が抱きとめると高熱が出ていることがわかった。


診療所に運んだところを、聞きつけた銀司が飛び込んできたのだ。


「すまない」


「銀司くん落ち着きなさい」


箔先生が止めに入ると銀司は握った拳で自分のもう一方の手のひらを打った。


「ちっくしょう」


「二人共、今日はだいぶ疲れたでしょうに。宿舎に帰ってもう休みなさい」


「寝られっかよ」


銀司は苦々しげに顔を歪めて壁を蹴った。


石造りの診療所が揺れる。


「こらこら、家を壊されては困ります」


「それにしても、君たちは随分変わったよね。昔は3人バラバラで顔を合わせれば喧嘩ばかりしていたのに、いつのまにかこうしていつも一緒にいるのだから」


「そうだったな。かぐやも白虎も小さい頃から優秀で、里守としての未来を期待されていたからな。一方里長の子の俺と来たら、平凡で何をしてもこいつらにかなわなくて」


「おまえ、随分ひねくれたガキだったよな」


「悪さをしては里長に罰を食らってましたね」


「なんだよ、白虎も先生も!・・・だけどよ、あるときかぐやに殴られて目が覚めたのを昨日のことみたいに思い出すぜ」


「そんなことがあったのか」


「まっ、俺とかぐやだけの秘密だから詳しいことは話さねぇけどな」


「俺もお前のこと数え切れないほど殴ったけどな」


「よく喧嘩してたよな、俺ら」


銀司が乾いた笑いを漏らした。