「かぐやさん、これを」


里長の命令を聞いた里守の一人が、急ぎ刀を手渡してくれた。


「黒居っすよ、かぐやさん。まいったな、僕のことなんか忘れたまんまっすよね。あなたは銀司隊長や白虎隊長と肩を並べる凄腕の里守っすよ。思い出して、絶対に誰にも負けたりしません。強い人ですから」


なんと返事をしたらいいのかわからなかったが、里の中で陰口を叩かれて塞いでいた心を、この年若い里守は軽くしてくれた。


何故だかはわからないが、異様に自分のことを嫌っている人間が多い中、そうでない人間もわずかにいることが嬉しかった。


銀司が目配せすると白虎が頷くのを見た。


言葉がなくとも通じ合える二人なのだと、一瞬羨ましく思った自分がおかしかった。


私は以前からこんなことを思う人間だっただろうか。


今は自分というものが欠けていて、それを周りから補おうとするあまり過敏になっているのだろうか。


「行くぞ」


白虎が塀の一部がぽっかり開け放たれたところから外へ駆け出した。塀の外はぐるりと堀が巡らされていた。


塀の外回りには先の尖った丸太がいくつも飛び出している。


不意に風が変わって鼻を付く匂いがした。


『狂骨魔じゃー!』


森の手前まで広がる畑を横切りながら人々が悲鳴を上げて転がるようにかけてくる。


バシュッツ


不意に殺気を感じ、身をひるがえすと草陰から長く鋭い爪をもった魔物が飛び出しすれすれのところを横切った。


ヒュンッ


すかさず魔物の首筋に鎖鎌を投げつけて白虎が仕留める。


白虎が複雑な目をこちらに投げた。


避けなくとも、そのまま攻撃できただろうと、そう問われているようだった。


体は覚えている。


確かにそうできた。


しかし、なぜかかぐやの心は刀を抜くことを拒んでいた。