「それが私の父と母なのね」


かぐやの瞳からいつの間にか涙がこぼれ出していた。


里長は頷き話を続けた。





若き頃、任務で深手を負い野山を逃げ回るうちに深い竹やぶへ迷い込んでしまった。


疲れ果て、自分の命もこれまでかと思われたその時にかぐやを見つけた。


憑かれたように手を伸ばすと幼子も近寄ってきて触れた。


すると不思議なことに傷はみるみるうちに癒えて再び立ち上がることができた。


不思議な幼子を抱きかかえて里へ帰ろうとすると、森の精霊どもが囁きかけてきた。


『その半人を漆黒の炎へ投じ、炎の生贄とすれば世界は救われる』と。


森の精霊はかぐやに触れることができないよう、かぐやの母親が守りの呪文をかけていた。


しかし、人間には触ることができた。


人間を信頼し、わが娘を守ってほしいと願ったのだろう。


若い自分には森の精霊の言葉よりも、命を救ってくれた幼子を見捨てることなど考えられず、里へ連れ帰った。


元々里には戦争などで孤児となった者を拾ってきては育てていたので、かぐやもその一員に加えられた。


その後、漆黒の炎がこの世のどこかに実在し、時に魔物を生み出し、時に魔物に大きな闇の力を与えているとの噂を耳にした。


魔物は古来から存在していたが、山や森の深いところにひっそり存在し、近づくものだけに危害を与えていたが、ここ数十年のうちにだんだん狂暴化し、人が住む場所まで出てきて暴れるようになっていた。


その被害は止むことなく多くの血と涙が流され続けている。


どうしたものかと思案していたところ、どこから話を聞いたのか


かぐやも自身のことを聞きに来たので、知っていることすべてを伝えた。